いい人に会社は経営できない - 『ユニクロ帝国の光と影』

2011年03月27日 17:20

ユニクロ帝国の光と影ユニクロ帝国の光と影
著者:横田 増生
文藝春秋(2011-03-23)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆


今回の大震災では、お粗末な危機管理が批判を浴びた。霞ヶ関も東電もコンセンサスで動いている組織なので、リーダーがみんな調整型で、強い指導力と迅速な意思決定の求められる危機管理には適していない。これは多かれ少なかれ日本の企業経営にも共通する特徴だろう。

これに対して、本書が詳細に取材して描くファーストリテイリングの柳井正社長は、徹底的な独裁者である。意思決定は社長がトップダウンで行ない、業績の上がらない部門長は部下の面前で罵倒される。柳井氏が後継者に指名した玉塚元一社長さえ、言うことを聞かないと更迭する。その結果、執行役員のほとんどが精神的にボロボロになって辞めていく。

労働条件も苛酷だ。賃金は業績主義なので、店長でも売り上げの悪い店では月給25万円。それで1日10時間以上、休日出勤して月間300時間も働くと、時給はマクドナルドのアルバイトより悪い。長時間労働で体をこわして辞める店員も多く、5年ともたないという。

海外の生産現場でも、ユニクロの品質管理は並はずれて厳格で、コストダウンの要求はきびしい。それでもユニクロと契約している中国メーカーは取引をやめない。それはユニクロが100%買い取りでロットが大きいばかりでなく、他の日本企業のように売れ行きが悪いと引き取りを拒否したり値引き要求をしたりしないからだ。

著者は柳井氏の冷酷非情な経営の内幕を描き、労働条件の悪さを暴露するのだが、読んでいるほうは逆に「なるほどここまでやらないと業績は上がらないのか」と納得してしまう。みんなに好かれる人格者では、とてもここまで合理化できないだろう。もちろん彼がみずから『一勝九敗』というように失敗も多いが、問題は失敗をなくすことではなく、それを認めてすぐ撤退することだ。

本書を読むと、今回の事故対応にもみられる「兵士は優秀だが将校は無能」といわれる日本型組織の欠陥は国民性による宿命ではなく、経営者の力量と企業のガバナンスで克服できるものだと思う。日本が元気になるには、東電のような古い会社が退場し、ユニクロのような新しい企業がもっと出てくることが重要だ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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