東電の株主責任について - 佐久間 裕幸

2011年04月16日 08:22

原発問題に関して、このような問題を起こした東電の責任問題についての一端として「100%減資による国有化」の話が出ている。JALの破綻の事例からの連想もあろう。
反対に「東電の株主は約100万人で、その多くが銀行預金と同様の安全運用先として東電株を保有していた個人株主であることを重視せざるをえない」(官邸幹部)という意見もある。

坊主(東電)憎けりゃ袈裟(株主)まで憎い,のレベルの議論はさておくならば、本件にあたり検討すべきは「東電の株主に今回の事件を予測し、そのうえで投資をしていたか」と「東電株主に東電の原発設計、運用の妥当性をチェックする責任があるか」の2点である。


金融証券取引法は、金融商品等の取引等を公正にすること等を通じて、国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的にする(同法第1条)と定めており、この中で有価証券報告書等の企業内容開示制度が定められている。東京電力の開示資料の中で、原子力発電における危険性(想定外の津波が押し寄せれば世界に不安を巻き起こす事故に発展するというリスク情報など)が記述されていたのであれば、こうした事故により株主が損害を受けてもやむを得ないと判断される。

あるいは、原発事故に伴う損失引当金などが多額に計上されており、経営不振に陥っていることが明らかであるにも関わらず、配当目当てに東京電力株式を購入し、保有し続けていたという事実も存在しない。もちろん、今回のような原子炉が管理不能状態になるような事故が起きてみれば、損失引当金が過少だったのではないかという疑念が出る余地があろう。しかし、電子力安全保安院の管理監督下で電子力発電所の設計、建設、運用を行っており、引当金の計上についても監査法人の監査を受けてきている会社の財政状態を株主がそのまま受け入れることに過失はないと判断せざるを得ない。

この点、株主優待により割安に搭乗できることのみを期待して、赤字状態であることが財務諸表だけでなく、世間の風評としても定着していた状態で株式を取得し、保有し続けていたJALの株主とは明らかに過失の状態が異なる。東電の株主に対して「東電の株主に今回の事件を予測し、そのうえで投資をしていたか」という検討点については、「事件の発生は予測しようがなく、よって事件を予測しながらも投資していたとはいえない」と結論することが相当であろう。

次に東電株主に東電の原発設計、運用の妥当性をチェックする責任があるかについては、株式会社制度を前提とすれば議論をするまでもない。会社法が定める株式会社の組織において、株主が会社の頂点に位置することは言うまでもない。ただし、株式会社において、特に上場企業においては、所有と経営の分離が大前提におかれており、株主は経営者に会社の運営を任せ、その経営成績、財政状態等についてディスクロージャー制度により報告を受けるだけであるというのが、その役割となる。すなわち経営責任を問われる立場ではないのである。もちろん、会社が破綻した場合には、その投資額を上限として責任を負う株主有限責任制度の存在が株式会社制度の基盤である。

その株主有限責任制度というものは、経営不振や天災で被害を受けた結果、会社の存続が不可能になった場合に残余財産分配で劣後するという責任を指すものであり、未曾有の天災に備えた原発設置をしていなかった経営責任をも含むものではない。経営責任の追及は、むしろ株主が経営者に対して行うものである。あるいは原子力発電所に関しては、東電株主は国に対して責任追及できるか否かの議論すらできるかもしれない。すなわち、「東電株主に東電の原発設計、運用の妥当性をチェックする責任があるか」という検討点については、「チェックの責任はなく、むしろ経営陣、国に対して損害賠償の権利を有する可能性すらある」と答えるべきであろう。

このように考えれば、東電国有化を行うとして、東電株主が株式価値を失うようなスキームを選択する余地はない。現状をみるに、こうした金融商品取引制度、株式会社制度の基盤によらない感情論で東電国有化問題が議論されることに危惧を持たざるをえないのである。

(公認会計士・税理士)

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