「自然水準」を理解する - 『マンキュー マクロ経済学』

2011年04月22日 08:28

マンキュー マクロ経済学(第3版)Ⅰ 入門編マンキュー マクロ経済学(第3版)Ⅰ 入門編
著者:N. グレゴリー・マンキュー
販売元:東洋経済新報社
(2011-04-08)
販売元:Amazon.co.jp
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世界の大学でもっとも多く使われているマンキューの教科書の最新版(原著7版)の訳本が出た。今回の改訂で重要なのは、動学マクロ理論の成果を紹介していることだ(その第14章は未刊の下巻だが)。

震災復興でも、国債を100兆円発行して日銀が引き受ければ日本経済はたちどころによみがえるといった話があるが、こういう「どマクロ」的な議論は、経済を長期的に制約する自然水準の概念を理解していない。特に今後の日本経済を考えるとき、成長率の上限となる自然産出量(潜在GDP)が大きく下がったことが深刻な問題である。

現代の動学マクロでは、通貨供給量そのものには意味がなく、金融調節はすべて金利で行なわれると考える。その際に参照される基準として重要なのが、ヴィクセルの自然利子率である。これは物価が変動しない(実物的な均衡の実現する)実質金利の水準で、これが非常に低い(場合によると負になっている)ために政策金利を下げてもきかないことが日本経済の成長をはばんでいる。

その原因は企業の資金需要が供給を下回っているためで、これを解決しない限り資金供給をいくら増やしても意味がない。自然利子率は財市場と労働市場で決まる実物的な変数なので、日銀がコントロールできないのだ。この点を誤解して、日銀が金をばらまけばGDPが無限に上がると信じているのがリフレ派である。

資金需要は将来についての見通し=アニマル・スピリッツで決まるが、それは何で決まるのだろうか? 本書では、アニマル・スピリッツを外生的な「需要ショック」と考えている。これはヴィクセル的な均衡理論で考えると当然だが、アニマル・スピリッツをどうやって引き上げるかという問題には答えていない。

本書は2008年の金融危機についても論じているが、これは動学的均衡理論では説明できない。そこでは経済は長期的な定常状態に収斂すると先験的に仮定しているので、均衡から外れて経済が暴走する現象は起こりえないからだ。この点ではケインズ理論のほうが不均衡を説明しやすいが、なぜその不均衡が縮まらないのかという問題には答えない。著者がかつて部分均衡モデルとして提唱した「メニューコスト」のような複数均衡の問題を一般均衡に取り入れる必要があろう。

本書もいうように、今回の金融危機は経済学に対する大きなチャレンジであり、これを説明できないマクロ理論には意味がない。まだ新しい理論への模索は始まったばかりだが、その出発点として本書の知識は不可欠である。特に政府が「景気対策」や「成長戦略」で経済をコントロールできると信じている政治家や官僚には、経済が持続可能な自然水準を超えて成長できないことを理解してほしい。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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