再生可能エネルギーは成功するのか?

山口 巌

小佐古東大教授が内閣官房参与を辞任することを昨日発表された。兼ねてより指摘している通り、菅首相の本質は、保身とその為のパーフォーマスである。アリバイ作りに利用されては叶わないと身を引かれたのであろう。賢明な選択である、満腔の敬意を持ってこの勇気ある行動に拍手を送りたい。

昨日投稿の記事で菅政権は持って後2ヶ月と予測したが、更なる短縮が予想される。

困った事は、今回の辞任に影響されて再生可能エネルギーが成功する為の条件を良く理解しないままに、マスコミが騒ぎ、世の中が原発から再生エネルギーへ一色に塗り潰される事である。

それでは再生可能エネルギーが成功する為の条件とは一体何であろうか?

私の考える所、第一は、化石燃料資源の枯渇。次いで、化石燃料供給が極端に細る展開。最後は、化石燃料価格の高騰である。

従って、再生可能エネルギー成功の可否判定は上記展開の可能性を精査すると言う事に帰結する。

第一の化石燃料資源枯渇の確率に就いて考える。これに就いては、池田信夫先生の記事が判り易く説明してくれている。

再生可能エネルギーが化石燃料と違うのは、資源が枯渇する心配がないことと環境汚染が少ないことだ。しかし埋蔵量でいえば、石炭も天然ガスもウランも(劣化ウランを再利用すれば)数百年あるので、再生可能エネルギーの優位性は環境負荷が小さいことに尽きる。

これ以上の説明は不要と思う。

次いで、化石燃料供給が極端に細る展開は起こり得るであろうか?

想定されるケースとしては、チュニジアに始まったジャスミン革命の火が中東全土を覆い、結果サウジを中心とする湾岸産油国原油輸出機能が麻痺すると言う、所謂、中東の地政学的リスクの高まりである。

懸念された展開であるが、エジプトのムバラク大統領が退任し、イエメンのサレハ大統領が近い内に退任、リビアとシリア両国の動乱の泥沼化と言う辺りで収まり、産油国への影響は軽微で済みそうな様相である。原油供給体制に変化はないと判断する。

最後の化石燃料価格高騰の可能性はどうだろう?

WTI原油先物価格観る限り、中東の地政学的リスクの高まりを織り込み、じりじりと値を上げている。しかしながら、このまま値を上げ続けるかと言えば疑問である。理由は3っつある。

第一の理由は、既に述べた通り中東が最悪期を脱した事によりサウジ他産油国の原油供給に何の支障も出ない事が確実になった事である。

第二の理由は、ここに来ての米国で始まり、世界を席巻しようとしているシェールガス革命である。これは、水平掘削技術と効果的にガスを絞り出す事に成功した水攻法技術の革新が寄与する所大きい。

日本では余り知られていないが、このシェールガス革命により、LNG価格は大きく下落している。当然、今後、原油価格にも大きな影響を与える筈である。

[世] 国際商品価格の推移(月次:2006年1月~2011年3月)(天然ガス価格(日本)、天然ガス価格(アメリカ)、天然ガス価格(欧州))

端的に言えば、再生可能エネルギー成功の為の最大障害はシェールガスの存在と言う事である。

最後は、再生可能エネルギーの台頭を良しとしないサウジ等産油国が政策的に原油価格の引き下げに動く事である。一定の需要の中で原油増産に動けば価格は急落する。

ここまでの検討結果で判断しても、再生可能エネルギーの成功は絶望的という事であろう。

更に、仮に原油価格が暴騰したとしても、結果、太陽光発電や風力設備、地熱発電プラントの設備価格が上昇し、発電コストを押し上げ、採算ラインを押し上げる事になる筈である。

再生可能エネルギーは原油価格と言う巨大なコンクリートの壁を相手にした壁打ちテニスの様なもので、幾ら頑張って強いボールを打っても、強いボールが帰って来るだけである。

誤解を恐れず判り易く言えば、NEDOの30年はこの壁打ちテニスの歴史である。

さて、こう言う環境下で孫正義氏が提唱する”自然エネルギー財団”を設立すれば結果どういう事になるのかは、極めて明確である。発電が高コスト体質となり、結果政府の補助金を要請するか、需要家に割高な料金設定を受け入れて貰うしかない。

この仕組みは、正に戦後のそのものであり、”自然エネルギー財団”は差し詰め平成の農協と言う所ではないか? 全く賛同しかねる。

代って、アメリカシェールガス鉱区取得を提案する。

何の投資効果も期待出来ないにも拘わらず毎年2,400億円の予算を消化するNEDOを廃止して、結果捻出される毎年の2,400億円をアメリカのシェールガス鉱区取得に投資するのである。

我々の子供の世代が、投資収益を享受し且つ地政学的リスクのないエネルギーソースの権益を保有する訳である。

山口 巌

コメント

  1. torajima2 より:

    そのアメリカでもオバマ大統領やリード上院議員がガソリン高騰の一つの解として再生可能エネルギーへの投資に積極的ですけどね。

    再生可能エネルギーの市場ができ、様々な企業が参戦する中で、再生可能エネルギーの価格は資源の上昇とは関係なく下がり続け、グリッドパリティの道筋まで見えています。そしてエネルギー変革は一朝一夕ではいかないため、ほとんどの国が20年、30年の長期的な視点で普及計画を建てています。

    批判するならば、20年後の地政学的リスクや資源価格上昇のリスク、そしてその時の再生可能エネルギーのコストで語らなければフェアではないですね。

  2. hogeihantai より:

    小佐古氏の辞任は政府が小学生の放射線防護基準を年間1ミリシ-ベルトから20ミリシ-ベルトに引き上げた事に反発したものですが、この政府の決定は非常に現実的で合理的な判断ではないのでしょうか?地球上には自然放射能による年間被爆量が20ミリシ-ベルトを越える場所は珍しくありませんし健康被害も報告されてません。小学生にとっては父母からの受動喫煙の方がはるかに有害なはずです。小佐古氏の行動のどこが賢明なのでしょう?

    山口さんは原発が最も経済的と主張されてたはずですが今度はLNGあるいはシェルガスに宗旨変えですか?原油価格は急騰すれば再生可能エネルギーの設備価格も上昇するといわれるが、原発設備も同じではないでしょうか?原発の方が設備償却費が発電コスト中に占める割合は大きいですよ。原油価格が暴騰すれば燃料費の掛からない太陽や風力発電の方がむしろ有利になるはずです。

    シェルガス鉱区獲得が採算に合うのであれば日本の商社が投資するはずです。何故政府が投資しなければいけないのですか?失敗したら税金で穴埋めではないですか.NEDOの2400億円が無駄なことには同意しますが、鉱区取得でなく借金の返済か減税に充てたほうが有意義です。

  3. worldcomw より:

    NEDOを廃止して化石燃料を買う(というか、その分 原油等を安く買う)のも良いですが、
    一応新エネルギーへの取り組みも続けるべきでしょう。
    ただ、税金や公金は必要有りません。
    例えば10円/kwhを達成すれば独占契約、のような条件を示して、
    内外の企業に自費で検証プラントを作らせればよいのです。
    必要なのは規制緩和とウソを見抜く力だけですし、失敗しても痛みはありません。

  4. ksmo2011 より:

     視点を変えれば、次の時代は、熱エネルギー利用からの離脱でしょうね。
     エネルギー源は、化石燃料しかありません。でも、その利用法は、熱として利用するのではなくて、酸化反応そのものを利用するエネルギー転換、即ち、燃料電池です。
     当面、天然ガスが有力ですが、石炭のガス化、或いは、もっと低質炭のエネルギー化、例えば、亜炭や、褐炭、ピート、或いは、シベリアの地下に眠る大量の腐植などが燃料として転換可能です。それらの全てを利用できると考えれば、それだけで、数百年を超える可採量があります。
     絶対にやってはいけないのは、バイオマスです。此は、決定的自然破壊です。本来、農産物にしろ、森林資源にしろ、自然界の炭素循環はそれ自体で既に全く余剰がありません。余剰がないところから収奪すれば、自然はやせ細って、砂漠化が起きます。ナイル文明や、メソポタミア文明や黄土文明が崩壊したのは、取りも直さず、自然界からの収奪の結果です。同じ誤りを犯してはなりません。
     言ってしまえば、風力や太陽光などは、気安めや道楽の範囲です。
     冷静な判断と、正確な理解こそが必要です。

  5. izumihigashi より:

    NEDOの力不足なのか発展段階なのでまだ採算ラインに乗っていないがトレンドは採算ラインに乗る方向で上向きなのか。
    あるシンクタンクでは太陽光パネルにもムーアの法則(のような法則)が適用されると言ってます。
    これまでの30年間で太陽光パネルのコスト(ワットあたり)は毎年7%ずつ下がっている。こう分析しています。この勢いが10年続けば現在のコストの約半分になります。20年続けば約4分の1になります。30年続けば約8分の1になります。

    原子力やガスでそれは叶うでしょうか?水素サイクルを利用した燃料電池ってのが将来は一般化されるでしょうが、水素を作り出す為のコストは、どの方法が一番安いか?という事が問われます。メタン改質による水素分離。電気分解による水素分離。時代によって最適な水素抽出法を選べばいい。

    資源としてのシリコンは実は日本に無尽蔵に存在します。しかし太陽光パネルやメモリ半導体に用いられる金属シリコンは、膨大な電気によって化合物から分離精製されるのです。
    電力コストが安くなれば、金属シリコン精製コストも下がります。将来の電力をタダみたいに起こせるような時代になると、ソーラーパネルの原料である金属シリコンもタダみたいに安く製造できちゃうのです。

  6. max513033 より:

    化石燃料、原子力、太陽光発電等のエコ系エネルギーの選択。 合理的選択をいままで踏み外してきた理由は、正当なデータでの比較論議のないまま、不合理な気合的指導のもとに政策を推し進めた来た反動がここに来て噴出してきたのだ。

    原子力がもっとも安い神話はうそに終わったし、原発なしにはピーク電力乗り越えられない神話もうそであった。これも正確最新のデータを比較してそのデータ上で良し悪しを論議されてこなかったことにある。 安全性もいまだに何シーベルトが安全なのか今もってデータで議論されずに避難者を混乱に陥れている。 新聞の”低レベル汚染水”とかどの数字をもって”低”といっているのか。 マスコミ、メディアすべて正確な数字を持って議論してもらいたい。

    山口氏もなぜ”太陽光etcが採算ラインを押し上げる筈”なのかまた不明確論議ではまた正しい道を踏み外すだけだと、データ議論をお願いしたい。

    もう”のようだ。。” ”筈である”などデータの無い議論はやめていただきたい。