非正規雇用改革 日本の働き方をいかに変えるか
著者:鶴 光太郎
販売元:日本評論社
(2011-06-20)
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★★★★☆
雇用問題はむずかしい。一見「かわいそうな非正規労働者」を救済するようにみえる規制強化が、その意図とは逆の効果をもたらすからだ。民主党は「小泉・竹中路線の行き過ぎた規制緩和」を否定して派遣労働などへの規制強化を行なってきたが、その結果は契約社員やアルバイトの増加と雇用のさらなる不安定化だった。
こういう間違った政策が続けられるのは、雇用問題の原因を誤解しているからだ。本書も指摘するように、80年代には16%程度だった非正規労働者の比率が現在33%まで増えた最大の原因は、雇用規制の緩和ではなく労働需要の変化である。製造業の比率が下がって熟練労働者の需要が減り、コンビニの店員のようなマニュアル化されたサービス業が増えると、長期的関係に支えられた日本的雇用の優位性は薄れる。
ところが厚労省はいつまでも高度成長期の幻想にすがって、正社員だけが「正規」の雇用形態だと考え、「非正規」な労働者を正社員に「登用」させることを労働政策の目標にしてきた。このために派遣労働が規制され、最近では有期雇用も規制して正社員化を促進しようとしている。本書が実証データで示すように、このような規制強化は非正規労働者の雇用を減らす効果しかない。
企業が労働者を一生にわたって拘束する雇用慣行は、きわめて特殊なものであり、実態としても日本の大企業の男性ホワイトカラーにしかみられない。それを基準にして、多様な雇用形態を「非正規」とみなす労働政策が本末転倒の偏見なのだ。本書も提案するように、むしろ有期雇用を既定値と考え、長期の雇用保障は大学教員のテニュアのような「プレミアム」と考える政策転換が必要だ。しかしそれは労働組合の支配下に置かれた民主党には不可能なので、自民党に発想の転換を期待したい。