「火力や自然エネルギーで電力価格があがる」をそのまま信じてはいけない

2011年07月04日 17:01

このところ産経Bizで電力自由化、発送電分離に対するネガティブ・キャンペーンが早くも始まっています。
【日曜経済講座】発送電分離の目的は何か 効果が得られないケースも (1/3ページ)
【問われる発送電分離】(上)競争促進で値下げは幻想 (1/2ページ) –
【問われる発送電分離】(中)安定供給懸念 議論は尚早 (1/2ページ) -:

原発に依存しすぎた電力政策を変えよう、自然エネルギーの活用の促進させようということへの反対はほとんどありません。自然エネルギーだというのは、耳障りもいいのですが、いかにそれを促進するかでは、利害の対立や利権問題も生まれてきます。こういったキャンペーンが行われることは、いかに発送電分離こそが争点であることを暗に示しています。


総論賛成、各論反対というのが世の常です。各論に入ると利害対立が起こってくるからです。

電力会社が株主総会で参加した株主の反対を押し切って「脱原発」に反対を表明したと言っても、従来の延長線で原発をつくりつづけることが困難だという認識はおそらくあるでしょう。電力会社にすれば、巨額の投資をした原発は稼働させたいでしょうし、たとえエネルギー政策が変わっても、施設への投資は必要でしょうが、電力料金の現在のしくみにしたがって電力料金をあげれば済む話です。しかし発送電分離となると違ってきます。神経を尖らせているのがそちらだということを、産経Bizの特集が見事に示しているように感じます。

冷静に考えれば日本が原子力以外でも電力不足を補う方法はあります。

第一の選択は火力発電の活用です。火力に依存すると価格が上昇するということが、マスコミや識者から無批判に流されていますが、日本よりも原子力の比率が少ない国でも日本よりも電力料金が安い国があるので、ほんとうかどうかは検証してみる必要性を感じます。現在の電力料金を決める仕組み、あるいは現在の電力会社の地域独占がある限り価格があがるということでしょうか。

火力は大気汚染につながり、その被害で人命が失われるという議論もありますが、それは海外の古いタイプの発電施設の話で、日本の最近の火力発電は、石炭による火力発電でもSOxやNOxの排出量はきわめて少なく、そういった公害はありません。また火力ではLNGの比重が高く、しかもLNG火力はエネルギー単価が安いのです。
日本の石炭火力発電所はクリーン | もっと知ってほしい石炭火力発電 | J-POWER(電源開発株式会社) :

火力発電の問題は、ひとつは二酸化炭素排出量が増加することですが、もうひとつは資源の海外依存を高めることです。
世界情勢の変化、資源価格高騰の影響を、今以上に日本はうけやすくなります。食料自給率の問題は、たんに飼料の海外依存度の問題にすぎないので、海外からの食料輸入が止まっても対処は可能ですが、エネルギー資源が止まると日本はただちに電力不足となり、国民生活も産業も窮地に追い込まれます。

『100年予測』の著者フリードマンは、『激動予測: 「影のCIA」が明かす近未来パワーバランス』で、アメリカの政策によって、中東に危機がさらに広がり、日本の資源輸入のシーレーンが脅かされることへの懸念を書いています。日本はエネルギーでは脆弱性を抱えているのです。

原子力政策も、日本が海外での資源情勢による影響をできるだけ下げたいということでした。

そうなると、やはり重要なのは資源輸入に頼らない自然エネルギー活用で、どうすればイノベーションが起こり、活用できるようになるのか、またどの自然エネルギーを活用するのであれ、電力価格の上昇をいかに抑えるかが本当の焦点になってきます。

電力の多様化と分散型にもっていこうとすれば、発電に多様な事業者が参入してくること、その競争によって、イノベーションが起こってくることを促進し、また価格の上昇を防ぐというのが発送電分離です。
発送電分離を言わないから、高額な電力の固定買取りという話になってしまい、自然エネルギー推進が価格を固定的に押し上げる結果になってしまいます。

経済産業省も意見が分かれています。電力業界や原子力産業を所管している資源エネルギー庁は、発送電一体体制を維持を考え、経済産業政策局では「産業競争力の観点からのエネルギー政策」の提言で、発送電分離が主張されています。岸博幸慶応大教授のコラムで紹介されていますのでご参照ください。
産業競争力の観点からのエネルギー政策(PDF)

経産省「抵抗勢力」論の真偽~エネルギー政策転換を阻むものの正体|岸博幸のクリエイティブ国富論|ダイヤモンド・オンライン :

発送電分離への動きは過去にもありましたが、小泉内閣が発電事業者(IPP)の参入に押しとどめました。しかしそれでも1995年から始まった大口電力の自由化で、高かった日本の電力料金は下がりはじめます。逆にドイツ、イタリア、英国などでは、2000年頃から石油価格の高騰によって電力料金が上昇し、内外価格差が是正されます。
図録▽電気料金の国際比較 :

アゴラで、藤沢数希さんが、エネルギー白書のデータを紹介され、日本の電気料金は決して世界一高いわけではないとされていますが、そのとおりで現在は、世界一高いわけではありません。
日本の電気代の国際比較: アゴラ

しかし藤沢さんが紹介されたエネルギー白書は、誤解を生むおそれがあります。七カ国に限ったことは、資源エネルギー庁の不自然な意図をすら感じます。ドル換算で電力料金比較を行い、日本はそのなかでは4位で、さほど高くないという印象を受けてしまいます。

しかし、このエネルギー白書が使ったIEAの元データでは、OECD加盟国で日本の電力料金は第8位と今なお高いほうだというのが現実です。
この元データをグラフ化してくれているブログがありましたのでぜひそちらでご参照ください。
日本の電気代は安いのか ≪ Scrap Japan :

最新データでは、もちろん円高も影響するのですが、イギリスのほうが安くなっており、なおさらの感があります。
2010 Key World Energy STATISTICS
(価格の国際比較は42ページ~43ページにあります)

ただ、いえることは、原発による発電比率が低い国が価格が高いとはいえないこと、また為替変動によって内外価格差も変化することです。

そもそも、各電力会社の本当の発電コストが知らされていません。各エネルギー別の机上で描いた価格で、あれが高い、これが安いと議論することは極めて危ないことです。安全神話ならぬ価格神話そのものです。本当のコストも開示されていないというのも独占体制の歪ではないでしょうか。

太陽光かその他のエネルギーかの技術に焦点をもっていくことで、発送電分離という本丸から話題をそらす議論だけは避けなければなりません。

すくなくとも、火力や、自然エネルギーで電力料金があがるものだということをそのまま信じることは止めるべきです。今こそ、価格を上げずに必要な電力を確保する日本の知恵が求められているのではないでしょうか。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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