現実的なマクロ経済政策提言

2011年08月14日 18:54

議論するのは面倒なので、ごくごくまっとうなマクロ経済政策提言をしよう。
なぜ今か。民主党の代表戦における増税論争もあるが、一番の問題は、世界ソブリン危機。8月初旬の株式市場の混乱は、単なる金融市場のリスク投資の調整。だから問題はないのだが、妄想だけで成立する金融危機と違って、財政危機は、金融市場と関係なく存在する事実。一旦パニックが収まり、世間の議論から消えても、財政赤字、累積債務は残り続け、それを削減するまでは何も解決しない。だから、金融市場の気分しだいで何度でも財政危機をイシューにすることはできるし、今後はそれを繰り返すだろう。
そのときに、金融サークルの次の目玉は、日本国債。テクニカルには、国債マーケット自身で勝負するのは、郵貯、生保、地銀を始めなかなか強力な買いグループがいるから、CDSなどをきっかけに攻めてくるかもしれない。いずれにせよ、そのテクニカルな側面はともかく、日本国債の格下げからの暴落シナリオ、あるいはその風説による仕掛けに対する防御策は考えておく必要がある。そして、それはまっとうなマクロ経済政策を打ち出すことでしかない、というのがこの記事を今改めて書いている理由だ。

この記事では、基本的な考え方を最初に述べ、それを具体化した政策プランを述べる。後者の政策プランは、経済的合理性と政治的実現可能性を同時に考慮したものとなっている。これは通常は望ましくなく、個人的に回避しているが、今回は緊急事態だと思うので、そのまま採用できるプランを目指している。その理由は、日本国債危機が、今回の米・欧ソブリン危機によっていつ起きてもおかしくないものになっているから、政策実行に関して余裕がないということからきている。緊急事態なのであり、その認識がこの記事の前提にある。


現在とるべきマクロ経済政策の基本方針は2つ。第一に、短期と中期を分けること。そして長期は中期の信頼を得ることで将来的に議論できるということ。つまり、短期、中期、長期に分けて考えるというのは常に重要だが、ここでのポイントは現在は長期を直接に意識してはいけない、ということだ。
第二に、震災・原発の話とそれ以外を分けて考えるということだ。マクロ経済は震災の影響を受けているが、政策は分けて考えたほうが建設的だ。もちろん政治的にはリンクさせた方がいい部分もある。ここでの方針は一旦分けて考え、統合的に考えることが必要な部分を後から統合して考える、ということだ。

さて、具体案を述べよう。財政政策は、拡張的なものとはしない。景気浮揚策としての財政政策は、現時点では機能しない。理由は、そもそも財政出動による景気浮揚は世界的にも効果は落ちているとされ、リーマンショック後の異常事態における底割れ(というよりは経済の崩壊)を防止する緊急対策以外は効果がなく、むしろ長期的には経済成長の阻害要因となっていることがひとつ。第二に、財政出動は穴を掘ってまた埋めるという形の浮揚策はマイナスであり、その出動の中身、質およびその質に対する国民、市場の信頼がないと効果がマイナスであるからである。(実は、世間でケインズ的政策として誤解されている穴を掘って埋めるという政策はケインズは支持していない。)現在、日本政府への信頼は最低水準であり、現状では財政政策は効果を発揮し得ない。さらに、今後も政治、政府への信頼感はさらに低下する可能性もあり、たとえ回復するとしてもそれは政府が支出を減らすという形でしか政府への信頼は回復しないと見込まれるので、政府への信頼を回復して、歳出も拡大という戦略はとりえない。
は言えないが)第三に、前述した財政危機を材料に金融市場を荒らされるリスクである。格下げによる混乱リスクも同じ観点だ。
したがって、財政政策の具体案は以下のとおりとなる。増税は限定的に行う。税目で言うとたばこ税と酒税に限定して行う。消費税は年金目的税化することを宣言する。地方税分はそのまま残す。つまり、年金とは別枠とする。
一方歳出削減は大幅に行う。公共事業は半減。地方交付税交付金は2割カット。しかし、補助金を含めて地方自治体の自由度を確保。つまり、使途を限定しないこととする。将来へ積み立てることも可とする。政策経費はすべて1割カット。これはもう出ている案で、無理に変更しない。それでいいだろう。子ども手当ても、児童手当など前のものに戻す。これも三党合意ができているから、無理にいじらない。ベストではないが、あれで妥協していい。戸別所得補償は棚上げ。向こう3年は実行しない。高校教育の無償化はどちらでもいい。強いて言えば無償化しなくていい。
これらの歳出削減で浮いた部分を、復興財源に使う。公共事業はこれで少なくともプラスマイナスゼロ。マクロ経済的には、子ども手当てなどの移転支出の分は古典的には乗数効果で明らかにプラス、乗数効果がないと考えてもマイナスにはならないので(復興支出が無駄という考え方をとらない限り)、マクロ経済的には緊縮的とは言えない。
これでもともと復興債を発行しようとしていた分は債務削減となるから、日本国債のリスク低下要因になる。短期にはこれはいまや最重要な論点となった。
一方、むやみに増税して財政再建を図ることは政治的にはマイナスだし、経済的にも短期には必要はない。経済的に求められているのは、中長期の健全性で、それをねたに短期的に金融市場が荒れるというのが問題だから、短期の景気悪化要因を無理には作らず、同時に中期的には健全化する方向性だけでも見せる、ということが現状ではセカンドベストと考える。
たばこ税と酒税は安直だが、コンセンサスが得やすく、増税でき、意外と税収があるものというとこれしかない。少しは増税するというスタンスは日本国債に対する市場評価の足元のリスクを減らす意味で重要。
歳出については、復興財源にするということで一律大幅削減をする一方、成長戦略の一環として新規の歳出をつけるスタンスは必須。その中身は議論が分かれるだろうが、今最も重要なのは、地方の若者の雇用。これは別のエントリーで議論する。
つまり、短期的にはマクロでの歳出増減はニュートラルにしつつ、部分的な増税を行い、短期的にマクロ経済にダメージを与えずに、財政再建の姿勢について今までとは違うところを見せることにより、中期的に日本国債市場の安全性を確保する。そして、震災については、震災復興を優先させる。そのための財源はそのほかの歳出を削減することにより行う。震災負担を国民で分かち合う。それは増税ではなく歳出の削減で行う。これが財政政策の方針だ。震災復興後はどうするか。それは長期の議論で、そのときに考える。それくらい復興には時間がかかる。中期の視点が必要だ。

金融政策。現状の超緩和政策、リスク資産市場支援政策、積極的な企業投資促進政策の維持。変更する部分はない。日銀は、好き嫌いはともかく、必要十分なことをやっている。個人的にはやりすぎだと思っているが、政治的には日銀に八つ当たりをして日銀に行動を要求することが正しいことになっているから、現状維持が唯一の実現可能なもののうち妥当な政策だ。
唯一重要なことは、政策の見せ方。それには日銀と政府与党との関係が重要だ。日銀はわれわれの敵ではない。仲間だ。そして少なくとも現在はインフレを抑えることに偏ることなく、日本経済のためにバランスの取れた政策を打ち出そうとしているし、打ち出している。だから、日銀批判はやめる。政府与党が日銀批判をするのは、最重要の顧客の前で担当の営業マンを社長がお前は本当に信用できないだめだ、ちゃんとやれ!と怒鳴りつけるようなものだ。最重要顧客とは為替を含む金融市場である。わが社最重要の営業マンを自信を持って送り出そう。顧客の前では褒めよう。どうしても不満、疑問があるなら、顧客にまったく気づかれないように、本社に戻って、裏でやろう。それが次の政権、あるいは日本政府として永久に必要なスタンスだ。
円高、デフレは原因ではない。結果だ。結果を操作することはできない。違う結果を出したければ、原因に影響を与えるしかない。デフレは長期構造的要因。デフレそのものが問題ではなく、雇用、所得が低下していることが問題で、しかも、これらが伸びれば、デフレは解消される。
円高も結果だ。ドル円が安いのは、ドルに要因があり、日本でじたばたしても何もできない。円高にはメリットも多く、原発事故後のエネルギー輸入コストの低下、資源、採掘権、関連企業の買収にもプラス。海外企業買収にもプラス。海外からの買収防衛にもプラス。大企業は、以前は中国、今はそのほかのアジア地域に円高を活かして工場をポートフォリオとして分散活用しているから、急激な円安はマイナス。だから、現状からさらに円高、しかも急変、あるいは乱高下ということは問題だが、現状ならそれを受け入れるのが最適戦略。円高の一番の弊害は、中小企業の雇用。大企業のようにポートフォリオが組めないから、日本の一箇所で操業している。電力問題も彼らにとっては致命的になりうる。だから円高対策は中小企業対策として行うべき。中堅企業には、海外進出の支援、マーケティング、人材確保などの支援を行う。小企業は、後継者問題、ノウハウの確保、継承を含めて、独立を維持したいという意向はあるだろうが、大企業との連携、買収などにより、システィマテックかつ総合的に経済に統合していく。
まとめると、短期には金融政策は現状維持。中期には中央銀行の信頼性を高め、次の金融危機のときに中央銀行が十分力を発揮できるようにしておくということだ。

財政と金融をミックスした金融資産の有効活用政策。これまでの政治サイドの議論はほとんどすべて誤りだ。日本は金融資産が眠っている。需要が出てこないのは、必要以上に貯蓄してしまって消費不足になっているからだ。これらの議論は誤りだ。いまや、日本の個人金融資産の政府の政務残高比率は先進国でも最低レベルだ。金融資産も少なくなっているのである。所得も資産も低下しているから、消費を減らすのは当然。しかも、政府の債務解消は将来の増税(あるいは年金の削減)しかありえないから、貯蓄で自己防衛するのは当然だが、しかもマクロ的には日本の貯蓄率は急低下している。
したがって、必要なのは、日本の金融資産を今よりも有効に活用すること。量的拡大ではない。質的改善なのだ。対策はシンプルで、日本国政府という国内で最も非効率な組織から金融資産を引き出し、効率的な主体に金融資産の活用の機会を与えるということだ。民間部門も期待できないというのなら、日本経済はいずれにせよ終わりだし、実際はそうではない。もう一つは政府による金融資産の活用の効率性を上げること。これは一つの手段は売却だが、売り方はいかにも下手で、売るべきものと保有したまま委託し運用益を収入とするべき場合とある。詳細は別の機会に述べるが、公的年金運用の効率化、政府系(実質政府系を含む)金融機関の効率化、住宅関係の政府系(実質政府系)機関の効率化だ。住宅関係は最重要で、ここの改革は具体的な政策の目玉になるだろう。

これらを明示的に打ち出すことは政治的に可能と思う。そして現状よりは経済的にも遥かにましで経済には大きなプラスとなる。そして、クリアな姿勢、説明が政治的人気も高めることになると思う。

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