日本は人類の未来のために高速増殖炉の研究を継続せよ

藤沢 数希

中川正春文部科学相は9月27日の会見で、福井県に立地する高速増殖炉の実証炉の研究開発を1年間凍結することを発表した。その間、最低限の維持管理費の年間200億円のみの予算が割り当てられ、それ以外の研究開発の予算は7~8割ほどカットされるとのことである。結論からいうと、筆者は日本は今後も高速増殖炉の研究開発に地道に取り組んでいくべきだと考えている。なぜならばそれは先進国が人類の未来のためにやらなければいけない当然の責務のひとつだと信じているからである。


まず最初に高速増殖炉というのは何なのか簡単に説明しよう。高速増殖炉というのは、現在の軽水(要するにただの水)を利用する核分裂炉と違い、中性子のスピードを落とす軽水ではなく液体金属ナトリウムで核燃料から熱を取り出し発電する。高速というのは、この中性子のスピードのことである。軽水炉では希少なウラン235同位体を利用したが、高速中性子を利用することにより、高速増殖炉では豊富に存在するウラン238同位体と、ウランに中性子が打ち込まれて生成されるプルトニウム239が核分裂し、大きなエネルギーを放出するのである。この時に核分裂してエネルギーを放出すプルトニウムよりも多くのプルトニウムが生成される。プルトニウムが次々と増殖していくので、増殖炉と呼ばれるのである。このことによって、エネルギー資源的には人類は数千年もの間、資源の枯渇には悩まなくてもいいことになる。

数千年も資源の枯渇に悩まなくてもいいというのは、何か画期的ですごい技術のようだが、実は非常に古くからある技術である。アメリカではすでに1946年に水銀で満たしたプルトニウム核燃料を核分裂させる高速炉が作られている。高速増殖炉の実証炉(商業用の発電性能をテストするためのプロトタイプ)はロシアで稼動しており、日本でももんじゅという実証炉がある。

このように資源の枯渇の心配のない夢の技術だが、なぜ実用化しないのかというと、理由は単純である。ウランも化石燃料もぜんぜん枯渇しないからである。ウランはあと100年程度、石炭はあと130年程度の可採年数があるといわれている。原子力に関しては、高速増殖炉は、既存の軽水炉とコストで太刀打ち出来ない。そしてこれだけ可採年数があると、何か突発的なブレークスルーでもない限り、高速増殖炉が軽水炉にコストで勝ることはあと数十年はないだろう。そして人間というのは、残念ながら、自分が死んだ後のことまでほとんど想像力が働かない。

また、高速増殖炉に研究開発を続ける負担は、その可能性に比べて非常に小さいものなのである。日本が40年間の間に高速増殖炉に費やした総額は1兆円ほどである。これは1年あたりにすると数百億円に過ぎず、日本の電力会社の年間15兆円の売り上げからすれば非常に微々たるものであるし、今回の原発再稼働の遅れで生じる2兆円~3兆円の損失で、すでに過去40年間に高速増殖炉の研究にかけた総額の数倍なのである。また、高速増殖炉に費やされた金額は、サンシャイン計画などで、日本がソーラーなどの再生可能エネルギーに投入した金額よりもかなり少ない。

化石燃料やウランが本当に枯渇した場合、同じレベルのエネルギーを生み出せるのは、日本やロシアが研究を継続している高速増殖炉や、アメリカで盛んに研究されている、同じく液体金属ナトリウムを使用し劣化ウランとプルトニウムを核分裂させられる第4世代原子炉や、フランスなどが力を入れている核融合炉などの核エネルギーしかないのである。化石燃料やウランが枯渇した時に、代替エネルギーが十分になければ、人類の過半数が死滅するような極めて深刻な問題なのだから、そのためにこの程度の金額の基礎研究を継続するのは、当然であろう。

参考資料
原子力発電がよくわかる本、榎本聰明
原発のウソ、小出裕章
日本のエネルギー・フローの全体像を理解する、金融日記
“FUKUSHIMA”後、世界の原子力は縮小するのか? アゴラ