ほんの数日前に『ボーイング787とイノベーション』という記事を書いた。要旨は「経済社会を大きく変化させたイノベーションを創出した企業に利益が集まる現状を踏まえ、日本企業も部品供給に満足するのでなく、部品を組み合わせて新しい価値を生み出すイノベーションを目指すべき。」というもの。スティーブ・ジョブス氏を偲ぶ多くの記事がイノベーションの重要性を指摘している、とも書いた。
そんな折、11月11日付の日経産業新聞1面に『iPhone4S、日の丸部品が攻勢 カメラはソニー』という記事が出た。記事には次のようにある。「コンデンサー、フィルター、無線LANモジュールは村田製作所」「プリント基板はイビデン」「DRAMはエルピーダメモリ」「フラッシュメモリーは東芝」「液晶パネルは東芝モバイルディスプレイとシャープが供給の中心」。その上で、「日本製部品の品質・性能の高さに加え、納期・数量の厳守やコスト削減がアップルに評価されたとみられる。」とある。見出しにもあったソニーのカメラのことは詳しく説明されている。
カメラ・モジュールは、米オムニビジョン・テクノロジーズ製からソニー製に置き換わった。ソニーの「裏面照射型」と呼ばれる、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサー技術が評価されたもよう。光の取り込みを邪魔する配線を裏側に回し、室内や暗い場所でも鮮明な映像を撮影できる。
日経産業新聞は、我が国は「世界の部品供給基地」として生き延びればよいと考えているらしい。かつてウォークマンを生み出し、家庭内だけで楽しんでいた音楽を街中に出すというイノベーションを起こしたソニーも、これからはカメラ部品メーカになればよい、と考えているらしい。イノベーションだったからこそ、1980年代から90年代にかけて、携帯型音楽プレイヤーの世界市場でウォークマンは第1位を続けたというのに。
そんなソニーに新たなイノベーションを期待しないのは、なぜだろう。それとも「日本の部品は頑張っている」と記事に書けば、20万ほどの読者がご機嫌になるのだろうか。
山田肇 -東洋大学経済学部