暫定規制値の強化は復興を阻害する

2012年02月08日 09:44

放射線の話はほとんどの人には興味ないと思うが、一部の声の大きい人がそのリスクを激しく主張するため、科学者が萎縮し、行政が過剰反応する。今週のGEPRで松田裕之氏も指摘するように、4月から食品の暫定規制値を500Bq/kgから100Bq/kgに強化する厚労省の規制は、福島県の農産物をほぼ全面的に禁止する結果になり、復興を阻害する。


そもそもセシウム137の放射線量(Bq)で規制することが非科学的である。有機水銀のように体内に蓄積される物質とは違って、セシウムは数ヶ月で体外に排出されるので、生涯にわたる「内部被曝」を心配する必要はないのだ。かりに体内にずっととどまるとしても、1年に15t食べないと100mSv被曝することはない。新基準では、この量が75t(毎日200kg以上)になる

現在の暫定基準も、リスクを過剰評価している。今まで疫学的に立証されている広島・長崎の放射線による発癌リスクは、瞬間的に100mSvを超える放射線を受けた場合の影響であって、長期にわたって累計で100mSvを超えた場合に健康に影響が及ぶというデータは世界のどこにも存在しないからだ。ICRPも次のように結論している:

委員会は、チェルノブイリ事故によって低線量の放射線を被ばくした集団における影響の絶対数を予測するためにモデルを用いることは、その予測に容認できない不確かさを含むので、行わないと決定した。

集団実効線量は疫学的リスク評価の手段として意図されておらず,これをリスク予測に使用することは不適切である。長期間にわたる非常に低い個人線量を加算することも不適切であり,特に,ごく微量の個人線量からなる集団実効線量に基づいてがん死亡数を計算することは避けるべきである。

ところが安富歩氏は、いまだに集団線量もLNT仮説も理解できないで、「規制値内の野菜を食べて、150万人に4人死ぬ」などというデマを流している。彼自身が「これが正しいかどうか知らない」と言っているように、これは仮説に仮説を重ねた計算にすぎず、実際に人が死ぬという根拠はない。この話が成立するためには、次の3つの仮説が成立しなければならない:

  1. 被曝による個人の発癌リスクは瞬間被曝量100mSv以下も0まで線形に生じる

  2. 個人の発癌リスクは集団のリスクとして加算できる
  3. 瞬間被曝量100mSvのリスクと年間被曝量100mSvのリスクは同じである

1がLNT仮説だが、ICRPも認めるようにこれは科学的根拠のない行政的な安全管理基準にすぎない。かりにこれが正しいとしても、2は成立しない。たとえば1人が4000mSv浴びた場合の死亡率は50%だが、1000人が4mSv浴びても何も起こらない。LNTは個人線量についての仮説であって、発癌率が線形に集計できることを意味しないからだ。

さらに3も成立しない。食塩を365g一挙に摂取すると死亡するが、1日1gずつ1年間食べても何も起こらないのと同じだ(これもLNT仮説とは無関係)。福島事故では瞬間的に100mSv以上あびた人は1人もいないので、今後も心配する必要はない。ましてμSvの放射線を何十年あびても健康被害は出ない。一つの細胞のDNAが1日8回も破壊される人間の体内では、この程度のわずかなリスクは織り込みずみだからである。

もちろん放射線のリスクはゼロではない。あなたが癌にかかる確率は50%であり、その中には放射線に起因するものもあるかもしれないが、それは統計的には誤差に入るぐらい小さいのだ。普通の食物にも放射性物質は含まれており、バナナ1本で0.1μSvである。100Bq/kgを気にするお母さんは、子供にバナナを食べさせないほうがいい。

追記:マスメディアには新基準の批判はほとんど出ないが、「コープふくしま」によると、100Bq/kgになると福島県では水田の作付けが多くの地域でできなくなる。測定も困難で、大混乱が予想される。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑