今、景観を巡って、みなとみらいが揺れている。結婚式場の建設を巡って景観にそぐわないと、市民はもとより建築家やデザイナーなど、その分野の専門家から不安の声が囁かれている。事業者の提案を審議するために、横浜市が設置している都市美対策審議会でも委員全員が反対するという、過去に例がない、異例の事態となっている。(リンク:横浜市都市美対策審議会■第14回 横浜市都市美対策審議会景観審査部会議事録)
みなとみらいは横浜市が一定の哲学をもって整備してきたエリアだ。一つのシンボルでもあるランドマークタワーもただ高いだけではない。足下にはドックヤードガーデンがある。これはかつてここにあった三菱重工の横浜造船所の船槃をそのまま保存したものだ。その向かいの船槃には海水をたたえ、帆船に本丸を展示してある。
また、桜木町駅から赤レンガ倉庫に至る道、汽車道と呼ぶが、これはかつての東海道貨物支線の跡地である。ことほど左様に、みなとみらい21地区は横浜港の歴史こそが横浜のアイデンティティと位置付け、本物をそのまま残している。週末になれば、多くの人が集まる人気のエリアになっているのは、そういう背景からだ。
そこへ降って湧いた結婚式場の建設計画。場所は観覧車の向いの、みなとみらい21地区の一等地である。都市美対策審議会では専門家から異論が相次いだ。「猥雑な景観」「デザインの微修正で済む問題ではない。根本からの見直しを求める」とここまで辛辣な意見が審議会で出たことは過去に例がないという。
ちなみに委員は市職員ではなく、全員、外部の有識者である。委員から厳しい意見が出たのは、事業者がみなとみらい21地区の景観と、このエリアを横浜市がどうやって整備してきたのか、理解していないと感じたからに他ならない。
景観は誰のものか。今、横浜市はみなとみらいを巡って、この問いを改めて突きつけられている。
しかし、この問題は横浜に限った話ではない。日本は高度経済成長期に経済的合理性を優先するあまり、歴史的建造物をはじめとする街並みや自然景観との調和など、地域の特色を自ら手放してきた。建築基準法や都市計画法に違反しない限り、いかなる建築物も建設が可能だからだ。その結果、日本全国、どこにいっても同じ風景が広がることになってしまった。果たしてこのままでいいのだろうか。
国は観光政策に力を入れている。人口減少社会において観光は経済活性化の切り札と捉えているからだ。
海外からの旅行者は観光地に何を求めるか。それは、その土地に住まう人たちの歴史であり、ストーリーであり、生活だ。そういったものが一番凝縮されたものが歴史的建造物ではないだろうか。
経済的合理性だけでは語れないものをどうやって後世に残していくか。改めて考え直す時期だと思う。
伊藤 大貴(Hirotaka ITO)
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