プログラムのコードは財ではない

山田 肇

プログラムのコードは財ではないと裁判所が判断したとWiredが報じている。記事によると、ゴールドマン・サックスで働いていた男が、2009年に取引用システムのソースコードをダウンロードしたとして、財産窃盗の容疑で逮捕された。しかし、米連邦裁判所は4月11日にプログラムのコードは物質的実体を持たないため、財産とはみなされないとする見解を明らかにした、とのことだ。

見解には、確かに次のように書いてある。「The Court concluded that “the computer program itself is an intangible intellectual property, and as such, it alone cannot constitute goods, wares, merchandise, securities or moneys which have been stolen, converted or taken” for purposes of the NSPA.」ソースコードは無形の知的財産であって物品等ではないため、連邦窃盗財産法(NSPA)違反とは言えない、ということだ。

問題は記事中の次の一文である。

ソースコードを手に入れた際、アレイニコフ氏はその“物理的支配”を手に入れたわけではない。そしてゴールドマン・サックスが取引システムを利用できなくなったわけでもない。そのため、同氏は連邦窃盗財産法(NSPA)に違反したことにはならない。

これは見解中の文章を正確に翻訳したものである。知的財産権には、有形財と異なり窃盗されても財そのものは手元に残るという性質がある。特許権が第三者に侵害されても、権利者はその特許権を利用し続けることができる。著作物が不正コピーされたとしても、著作物そのものが消滅するわけではない。

『盗むなかれ』はモーゼの十戒にもあるが、モーゼが知的財産権までを意識していたはずはない。当時は、有形財しか存在しなかった。これに対して、知的財産権は近代国家が作り出した人工的な権利である。だからこそ、知的財産権の窃盗は知的財産法で裁く必要がある。

知的財産法にどう記述されるかで窃盗と合法的な利用が分かれるのだから、法が曖昧では後に禍根を残す。著作権法に「違法ダウンロードに対して刑事罰を科す」という修正をしようという動きがあるが、改正案そのものを早く見たいものだ(ネットで探したが見つからなかった)。日本経済新聞の記事には「軽微な違反の摘発が乱発しないよう配慮した」とあるが、曖昧さがないか心配だ。

山田肇 -東洋大学経済学部-