スーパーハイビジョンと経営者の責任

山田 肇

朝日新聞に『NHK、スーパーハイビジョン野外伝送実験に成功』という記事があった。気になってNHKをみたら、「スーパーハイビジョンをはじめとする大容量コンテンツの地上波による放送サービスを実現するために、次世代の地上放送方式の研究開発を進め」ていたとのことだった。5月24日からの研究所一般公開をPRする報道発表だったのだろう。

この研究開発には多くの疑問がある。消費者は受け入れるだろうか。すでに記事『テレビは超高精細に向かうのか』にも書いた。お仕着せの10チャンネルを1億人が視聴する時代から、数100万の中から自分の嗜好に合うコンテンツを視聴する時代に移っている。それがスマートテレビだ。そんな時代に、お仕着せのスーパーハイビジョンコンテンツに消費者は魅力を感じるか。


なぜ地上波伝送なのだろうか。ケーブルテレビの普及率は5割を越えている。移動通信や無線LANも高速化している。光ファイバもある。代替手段が数多い中では「テレビは地上波で」は、もはや思い込みにしか過ぎない。

開発したいという研究者の気持ちはわかる。「より大容量」は間違いなく技術進歩の方向だからだ。研究者からの提案を冷静に評価し、GoとNo Goを判断するのが経営者の役割だ。経営者は放送技術研究所の計画をきちんと見ていたのだろうか。経営委員会の議事録をみると、2011年12月6日の委員会で『平成24年度収支予算編成要綱』が審議され、その中で「スーパーハイビジョンの研究開発や実用化に向けた普及促進」を行うと説明されている。しかし、経営委員からは何の意見も出なかったようだ。

メーカが進める有機ELテレビにも同じ危惧を感じる。確かに有機ELは「より薄く、より美しい」のだが消費者に魅力的だろうか。反応速度や色純度が評価されたプラズマテレビも市場から消えたというのに。デジタルテレビの購入に国民は5兆円(5万円×1億台)以上を使ったばかりだ。昨年8月以降、薄型テレビ国内出荷台数は前年比3~4割に落ち込んでいる。それでは世界に市場はあるのか、「テレビはDNA」というだけでは済まない。ここでも経営者の責任が問われる。

山田肇 - 東洋大学経済学部