「背伸びして」進歩する無線LAN

山田 肇

日経BP社のITProサイトに『最近の無線LAN規格は背伸びしている?』という記事が出ていた。見出しを見たときには「背伸びは問題だ」と指摘しているのか思ったが、実際には「(標準化の段階では)かなり背伸びをしているように見えても、何年後かにはちょうどよいレベル感になるのかもしれない。」という穏当なものだった。

無線LANは高速を目指し、背伸びして!性能を向上させてきた。その結果、ブロードバンドで広く利用されるようになった。パソコン、ゲーム機から掃除機まで、あらゆる機器が無線LANで接続されるようになり、ユビキタスに必須の技術になった。

IEEE(米国電気電子学会)の下にある802.11委員会が無線LANの標準化団体である。IEEEは純粋な民間団体で、ITU(国際電気通信連合)のような各国政府のお墨付きはない。しかし、世界でデファクトの地位を占めている。一時期、中国は独自の無線LAN(WAPI)を普及させようとしたが失敗した。中国も今ではIEEEに参加している。


IEEEは個人参加が原則だが、シリコンバレーの企業群は大きな影響力を上手に行使している。一方、「標準化活動はすなわち政治活動である」ということへの認識がない、わが国企業の存在感は総じて薄い。そんな中、日本人としては珍しく、サブグループ802.11aiで真野浩さんが議長を務めている。aiが実用化されると端末認証が高速化される。電車が駅に停車している間に乗客がいっせいに通信したり、路肩のサイネージと連動して歩行者に広告を送ったりといったことが可能になる。真野さんの話によると、そんなaiでも中国企業の発言が目立ってきたという。

知的財産推進計画2011』は「国際標準化のステージアップを通じた競争力強化を目指していく」とうたっている。そのためにはIEEEに代表されるフォーラムでの戦い方についてわが国企業の理解を高める必要がある。そこで、情報通信政策フォーラム(ICPF)では、真野浩さんに5月30日に講演いただくことにした。ふるってご参加ください。

山田肇 -東洋大学経済学部-