地上テレビ放送の周波数帯には空きチャンネルが多数存在する。40チャンネル分が割り当てられているが局数は10もないからだ。この空きチャンネルのことをホワイトスペースという。わが国では、ホワイトスペースをエリアワンセグ放送に利用する実験が進められてきた。いわゆる「ホワイトスペース特区先行モデル」である。
一方、僕は文部科学省科学技術政策研究所から2008年に発表したレポートで、技術的に簡単な放送利用からスタートするのは構わないが、より困難な通信利用に向けて研究開発を進めるべきと主張した。最近、やっとその芽が育ち始めた。情報通信研究機構(NICT)が5月下旬に『テレビの周波数を利用したホワイトスペース通信の実証実験に成功』と報道発表したのである。
空きチャンネルの情報を提供するデータベースが構築され、判明した空きチャンネルを使って横須賀で通信実験に成功した、というのが発表の概要である。データベースの画面イメージが掲載されているが、それを見れば、空きチャンネルが潤沢にあることがわかる。しかも、NICTの研究のスポンサーは総務省である。エリアワンセグにこだわってきた総務省が通信利用に動き出したと読み取れる。
これからは、プラチナバンドのテレビ帯を、テレビ放送に迷惑をかけることなく、通信に利用できるようになる。利用者はWiFi(2.4GHz)でアクセスポイントにつながり、アクセスポイントとコアネットワークの間はホワイトスペースで接続する、というのが一番簡単で迷惑が起きない利用イメージである。その先には、利用者のデバイスがホワイトスペースを直接利用する技術も待たれる。
ただ一つ懸念がある。800MHzを利用していたワイヤレスマイク(正式にはラジオマイク)をホワイトスペースに移動させる計画があるのだ。潤沢なホワイトスペースも、気が付いたらラジオマイクで虫食い状態になり、通信には利用できない恐れがある。総務省は通信利用を視野に入れて、ラジオマイクが利用する周波数をあらかじめ制限しておくべきた。
情報通信政策フォーラム(ICPF)では、二カ月連続して、ホワイトスペース活用を考えることにした。エリアワンセグの現状をテーマに6月のセミナーを開催する。7月にはNICTに通信実験について講演してもらうことになった。6月のセミナーにはまだ余席がある。申し込みをお待ちします。
山田肇 -東洋大学経済学部-