厚生労働省は9月18日に「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」を公表した。マイナンバーは社会保障・税の法定事務において限定的に利用されるということで、医療等での番号制度を検討したものである。結論は「マイナンバーとは異なる、医療等分野でのみ使える番号や安全で分散的な情報連携の基盤を設ける」というものだ。
なぜ、マイナンバーを用いないのだろうか。報告書にはその理由が「医療等分野でやりとりされる情報は、機微性の高い情報を含むものであり、所得情報などと安易に紐付けされない安全かつ効率的な仕組みにする必要があることから、マイナンバーとは異なる医療等分野でのみ使える番号や安全で分散的な情報連携の基盤を設ける」と書かれている。
僕らはマイナンバーの他に医療用番号を持つようになるのだろうか。それは嫌だ。
そもそも、医療情報と所得情報が同じ番号で整理されていたとしても、両者が安易に紐付けされるわけではない。マイナンバー制度ではシステム上の安全措置として、「番号」に係る個人情報の分散管理、「番号」を用いない情報連携、個人情報及び通信の暗号化、アクセス制御が施されることになっている。第三者機関の監視、法令上の規制等措置(目的外利用の制限、閲覧・複写の制限、告知要求の制限、守秘義務等)、罰則強化といった制度上の保護措置も図られることになっている。
厚生労働省はこのことを十分に承知しているはずだ。それにも関わらず医療用番号を別に設けようというのは、省益を守るための主張としか受け取れない。
マイナンバーの先にはマイポータルが展望されている。マイポータルができると、個々人の事情に応じて行政から情報が配信されるようになる。今までは自ら申請しなければサービスを受けられなかったが、これからは、「このサービスを受けられますよ」と行政の側から知らせてくれる。マイポータルに配信される情報には医療等の情報も多い。老人保健法による基本健康診査(住民検診)、乳幼児健康診査、予防接種など。
医療用番号を別に設けるという厚生労働省の主張は、国民本位の電子行政を阻害する。
山田 肇 -東洋大学経済学部-