強い円は日本の国益である

2012年11月22日 03:00

次期首相の最有力候補である安倍晋三総裁が15日に都内で行った公演で、大幅な金融緩和策を実行していくと主張した。その内容は、無制限の量的緩和、インフレ・ターゲット、国債の日銀直接引き受けなど、いわゆる日本のリフレ派の政策そのものであった。このような非常にアグレッシブなインフレ政策の発言を受けて、円は売られ、大きく円安方向に進んだ。市場の反応が大きく、さらに様々な有識者から批難にさらされた結果、安倍氏は、今日になってその発言のいくつかを取り消している


このような安倍氏の発言の背景には、デフレが続くこと、その結果としての円高が日本経済を逼迫しているとの認識がある。デフレとは、モノやサービスの価格が下がること、逆に言えば貨幣の価値が上がることだから、貨幣の流通量を増やせば解決すると考えている。よって、日銀の金融緩和策が十分ではないからデフレも円高も是正されないのであり、日銀にさらなる政治的圧力をかける必要がある、というわけであろう。

さて、ここで筆者の考えを書いておこう。まずは物価が下がっている現象であるが、筆者はそもそも日本の物価は下がっていないと思っている。この10年あまりの間に大きく物価が下がったのは、中国などの工場で高品質のモノを大量生産して輸入できるようになった衣服や、輸入食材を使う外食などであり、グローバリゼーションの恩恵を受けているものばかりだ。これらは国内産業を守るという名目で様々な規制があった時代には(言うまでもなく、そういった規制の敗者は国民である)、海外の価格と日本の価格に大きな差が開いていた。それが今では、海外と同じような水準になったというだけに過ぎない。

一方で、タクシー料金や携帯電話の通信料、国内線の航空券などは、既得権益を守るための国民にとって有害で無益な参入規制により、今もなお国際的な水準と比べて、日本国民は高い料金を支払わなければいけない。こういったサービス業を見れば、日本の物価はまだまだ高いのだ。

以上の議論は、経済学の言葉で言えば相対価格の話であり、インフレやデフレのような現象では、モノやサービスの価格全体(一般物価水準)を考えなければいけないのはその通りだ。しかし、全体の物価、というのは実務的には代表的なモノやサービスのバスケットの平均価格から計算する他なく、こうした観念的な一般価格水準が正確に計算できることはない。そして、このような不正確な指標が年間で横ばいだったり1%程度下がることもある、という程度ではデフレとは呼べないのではないだろうか。日本のデフレは、今まで参入障壁によって国際的な水準とはかけ離れていたモノやサービスの値段が、国際的な水準に是正されているというプロセスに過ぎず、それゆえに、まだまだこうしたプロセスは、TPPに加盟したり、国内の通信業界や航空業界などに適切でフェアな競争政策を導入することによって進んでいくし、そうするべきなのだ。

また、仮にデフレだったとしても、日銀がいまの法律の枠内でできることは限られているし、恣意的な非伝統的な金融緩和などするべきではない、と筆者は考えている。ゼロ金利では、日銀がさらに資金供給をしても、それは民間の銀行が貸し出し先がないのでしょうがなく短期国債で保有している資産を日銀が買い取り、その分の現金が日銀当座預金として積まれていくだけであり、金融システムの外にお金は出ていかない。日銀が外国債券や株式などを直接買えば(非伝統的金融政策)、確かに買入対象の資産価格が上がるが、そうすることにどんな意味があるのだろうか。やはり資産バブルが起こるだけで、日常必需品の物価にどう影響するのかは、不明だ。さらに、日銀はゼロ金利政策の期間の長さ、バランスシートの対GDP比率の大きさなど、すでに世界最大の金融緩和をずっと行なって来ているのだ

そもそもリフレ派の想定していることは、国民にお金をばら撒くことで貨幣の流通量を増やすことであり、それは金融政策ではなく、財政政策である。例えば、赤字国債を発行して(現状では金利が低いので日銀に買い取らせなくても巨額の国債を発行できる)、それで定額給付金を配ればいい。つまり、日銀の仕事ではなく、政治家が国民にリスクを説明して、国会でヘリコプターマネー法案を通して、ばら撒けばいいのだ。そういう民主主義のプロセスをすっ飛ばして、日銀にヘリコプターマネーをやれ、というのは、経済政策以前の問題として法律論的に間違っている。

また、現在は円高だという認識だが、筆者はそれも怪しいと思っている。購買力平価で見れば、日本はそれほど円高とはいえない。さらに、円高は悪いことだという思い込みも激しく間違っている。円が高いと、我々日本人は、外国からより多くのモノやサービスを買うことができる。海外旅行をすれば、簡単に円高の恩恵を享受できるだろう。さらに、外国の会社の株式など、より多くの海外の資産を購入できる。仮に円高だとしたら、高く評価されている自国の通貨を使って、海外の資産に投資する絶好のチャンスであろう。また、工場労働など、短調な作業が必要な仕事は、途上国などの賃金の安い国に移転させ、日本人は、よりクリエイティブでエキサイティングな、本当の意味での高付加価値の仕事に集中できるのだ。このように円が高いことにより、いいことはいくらでも上げられるが、筆者は悪いことは何ひとつ思い浮かばない。

強い円は国益なのだ。

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