「消費税増税は景気を悪くし財政再建に逆行」の嘘

2012年12月08日 10:57

消費税増税は、衆議院総選挙での1つの争点である。2012年8月に成立した社会保障・税一体改革関連法での予定通り、2014年4月に消費税率を8%に引き上げるか否かである。

消費税増税に反対する側からは、消費税を増税しても景気が悪くなって結局税収が増えないから、財政収支は改善しない(消費税増税は財政再建のためにもよくない)、との主張が出されているが、正しいだろうか。

答えは、誤りである。その理由を以下で説明しよう。


まず、消費税増税を2014年4月に5%から8%(うち国税分が6.3%、地方消費税が1.7%)に増税したら、国の一般会計の税収はどうなるかを見てみよう。このとき、重要になるのは、名目経済成長率の想定である。ここでは、財務省「平成24年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(略称:「後年度影響試算」)で用いられているもので、2013年度は1.4%、2014年度に1.5%としよう。税収弾性値は、同試算でもちいられ、かつ経済学的に客観的な裏付けのある値で、1.1とする(つまり、名目成長率が1%上昇すると税収は1.1%増加する)。税収弾性値が1.1であることの正当性は、土居丈朗編著『日本の財政をどう立て直すか』日本経済新聞出版社に示されている。

この前提で、2014年度の税収はどうなるかを示したのが、表1である。2012年度の税収は、国会で可決された2012年度当初予算の額で、これを基に2013年度と2014年度の試算をしている。

表1 2014年度までの一般会計税収(成長率が政府想定)

表1 2014年度までの一般会計税収(成長率は政府想定)

表1をみると、2014年度に消費税率が引き上げられることから、2014年度の一般会計税収は49.9兆円となることがわかる。ちなみに、この試算は、前掲「後年度影響試算」と数千億円程度しか誤差がないので、ほぼ再現できているとみてよい。

ただ、表1は、名目成長率が1%半ばと低い成長率を想定しているとか、2014年度に消費税が増税されても名目成長率が(税率引上げに伴う物価上昇を見込んで)下がらない、といった辺りは、増税に反対する意見を持つ側から見れば不本意なものに見えるかもしれない。

そこで、消費税を増税しなくても経済成長を促せば税収は確保できる、という主張に沿う形で、名目成長率の想定を変えてみよう。表2では、2013年度と2014年度を名目成長率が4%となるとし、消費税率も2014年4月に引き上げないこととして、国の一般会計の税収を試算したものである。

表2 2014年度までの一般会計税収(成長率を4%と想定・消費税増税なし)

表2 2014年度までの一般会計税収(成長率を4%と想定・消費税増税なし)

表2をみると、2013年度には政府想定よりも高い成長率が実現するので税収は多く入るとみられるが、2014年度は、名目成長率が4%になったとしても消費税率を引き上げないので、一般会計税収は46.2兆円となり、低成長で消費税率を引き上げたときの49.9兆円には及ばない(容易に名目成長率を4%にできるか否かは自明でないことは、言わずもがなである)。

この表2での2014年度の一般会計税収46.2兆円を基準に、消費税増税とそれに伴うと懸念される不況が税収にどのような影響を与えるかを確認してみよう。つまり、表2での2014年度の一般会計税収46.2兆円(消費税増税なしで名目成長率4%)と同じ税収が、消費税を増税するがどの程度不況になっても確保できるかを分析する(ちなみに、消費税を増税すれば深刻な不況になるか否かは自明でない)。

表3には、2013年度は表1と同じ成長率だが、2014年度に消費税を予定通り増税した場合、名目成長率が何%になったら一般会計税収が46.2兆円に落ち込むか(名目成長率が1.5%なら税収は49.9兆円だった)を示したものである。

表3 2014年度までの一般会計税収(2014年度に消費税増税、成長率低下)

表3 2014年度までの一般会計税収(2014年度に消費税増税、成長率低下)

表3をみると、2014年度に名目成長率がマイナス5.4%になると、消費税を増税しても一般会計税収は46.2兆円(消費税増税なしで名目成長率4%)と同額になる、ということがわかる。ちなみに、名目成長率は、消費税が増税された1997年度はプラス1%、大手金融機関の破綻に端を発した金融危機の影響を受けた1998年度はマイナス2%、リーマンショックの影響を受けた2008年度はマイナス4.6%だった。ここでの成長率は、1四半期だけ瞬間風速的に大きくマイナスになるという次元のものではなく、年度の税収への影響を見ているのだから、年度単位の成長率で見るべきである。

別の言い方をすれば、消費税を増税しても名目成長率が年度単位でマイナス5.4%以下になれば、消費税を増税するより名目成長率を4%にして消費税を増税しない方が良い、ということがいえる。

あるいは、消費税増税をせずに名目成長率を何%まで高めれば、政府が想定している名目成長率(2014年度に1.5%)の下で消費税を行った場合の一般会計税収(49.2兆円)が確保できるかを見てみよう。それを示したのが、表4である。

表4 2014年度までの一般会計税収(2014年度に消費税増税せず、成長促進)

表4 2014年度までの一般会計税収(2014年度に消費税増税せず、成長促進)

表4によると、消費税増税せずに名目成長率を11.7%にできれば、2014年度の一般会計税収が49.2兆円となることがわかる。名目成長率が11.7%というのは、高度成長期でも頻繁には実現できなかった水準であろう。名目成長率1.5%で消費税増税したときと、名目成長率11.7%で消費税増税しないときが同じ税収になる、といえる。

これらを展望すれば、リーマンショックの影響を受けた2008年度よりも深刻な不況が消費税によって引き起こされない限り、「消費税を増税しても税収が増えず財政再建のためにならない」とは言えないのである。しかも、それと比較対象としているのは、名目成長率を4%にできた場合である。名目成長率を4%にもできず消費税増税もしないとなれば、いつまでたっても日本の財政は立て直せないままである。実現できるかどうか自明でない名目成長率4%に期待して消費税増税を延期した方が、むしろ(というか推論通り)財政再建には資さないのである。

消費税増税に反対する立場からは、認めたくない「不都合な真実」かもしれないが、名目成長率を4%にして消費税を増税しない場合よりも、消費税を増税して名目成長率が仮にゼロ程度にとどまる場合の方が、より多く税収が入り、結果的には財政収支の改善に貢献するのである(もちろん、成長率が低くてよいと言いたいわけでなく、わが国の生産性向上のための取組みを支持している)。

確かに、歳出削減への取り組みはまだまだ多くの余地があり、これは不断の努力として実施すべきである。消費税を増税しても歳出削減を怠れば財政再建ができないことは言うまでもない。それとともに、いま議論すべきことは、消費税増税を延期するか否かではなく、消費税を増税しても経済成長率ができるだけ落ちないようにする方策である。

——
土居丈朗 @takero_doi

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土居 丈朗
慶應義塾大学経済学部教授

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