官僚試験にTOEFL導入だけでは生ぬるい! --- 本山 勝寛

アゴラ

先日3月15日に行われた政府の産業競争力会議で、国家公務員のキャリア(官僚)採用試験にTOEFLを導入することが提言され、2015年度の採用試験を目途に検討されるという報道があった。同会議の委員を務める楽天の三木谷さんなどが提言した案で、硬直した官僚試験制度に一石を投じる良案だといえよう。


先日、本ブログでも大学入試のTOEFL導入を提言したばかりだが、両案をぜひセットで進めてほしい。前にも書いたが、TOEFLはリーディング、ライティング、リスニング、スピーキングという英語における4つの能力をバランスよく測る試験のため、その対策をすることで日本人が特に苦手なスピーキング力の強化につながる。また、官僚に必要とされるであろう英語の専門的文書を高速で読み解き、まとめる力も養われる。

国際化時代の今日、外務省のみならず経産省、財務省、防衛省、農水省、文科省、総務省、厚労省、法務省とあらゆる省庁において、国際交渉や国際会議、外国への説明・情報発信、海外調査の業務は避けて通れない。いわば英語の能力は必須なわけだ。にもかかわらず、日本の官僚の平均的な英語力は決して高いとは言えず、多くの途上国の公務員が不自由なく英語で業務ができるのと比べると絶望的だ。官僚試験へのTOEFL導入は遅すぎたとも思えるくらいだ。

TOEFLは米国の団体であるETSが行う試験であり、日本が国として外国の試験を導入することはいかがなものかという批判もあろう。しかし、スピーキングやライティング力までみるあれだけの試験を自前で実施するとなると、相当なコストがかかる。また英検よりも実践的で、国際スタンダードになっている点もメリットがある。コストパフォーマンスの観点からTOEFL導入は得策といえる。ただ、受験料が1回225ドルと高額な点はネックであり、私も苦学生のときに目標スコアの達成のため複数回受験することになり、かなり経済的に苦しめられた。国家公務員試験や大学入試に導入するとなれば、かなりの高額がETSに落ちることになるが、そこは日本政府としても料金交渉を行ってほしいところだ。

また、英語の能力だけが、官僚に必要とされるものではないという意見も分かる。TOEFLを絶対視する必要も、足きりにする必要もなく、他の能力は別にみるなかで総合評価の一材料とすればよいだけの話だ。所詮、TOEFLでハイスコアが取れても英語が完全にできるとは限らないので、そこは割り切って、官僚全体の基礎的な英語力の底上げと、しいては日本の大学生の底上げのための一方策に過ぎないと考えればよいだろう。

さて、ここまではTOEFLの官僚試験導入についてだが、国際化に対応するための官僚改革は、これだけではまだ生ぬるいと考える。変えるべきことは山ほどあるが、その一つとして官費海外留学制度を挙げたい。

キャリア官僚は20代後半くらいに、各省庁から選抜された者が海外の大学院修士課程に留学する制度がある。私のハーバード大学院留学時代も、財務省、経産省、文科省、厚労省などから、知る範囲だけで20名近くが各専門職大学院に留学していた。同じ学校で学んだ尊敬する友人たちなので、あまり言いたくはないが、年間400万円近くの学費と現地の生活費、さらには給料までを税金からもらって勉強していたことは、正直羨ましいというか一国民として疑問だった。こちらはあらゆる奨学金をあたったうえに、借金して自腹を切り、生活費も極限まで切りつめて何とか留学できたのに比べると雲泥の差だ。

この制度で、1人につき2年間で平均約1500万円、年間約130人が派遣されており、年間十数億円の税金が使われているようだ(人事院HP)。さらには、政府関連機関のJICAや日銀なども同様の制度があるので、実際に投与されている税金はもっと膨らむはずだ。以前は、官費留学したにも関わらず、官僚を辞める人が続出したことが批判され、5年間は公務員の職を継続しなければ費用を償還することが義務付けられた。

私としては、国益に資する効果的な人材施策であれば、この費用が決して高いとは思わない。ただ、税金で学費と生活費、給与まで保証されている官庁派遣の留学生が、私費留学生に比べると平均的に勉学へのモチベーションというか危機感のようなものが薄いことは私も感じたところだ。留学後にはどうせ戻ってくる職場もあるので、次の仕事を探すためにがむしゃらになる必要もない。また、帰国後は留学先で学んだ内容とは関係のない部署に人事となることも多く、業務にいかされていないケースが多いと聞く。そんな研修制度に1人1500万円をかけて、しかも2年間働かずに給料を払うことが果たしてよいものだろうか。

官僚が海外経験を積み、国際交渉力を磨く必要性については同意する。要はその方法だ。そこで、以下の提案したい。

現状の大学院留学支援制度を、キャリア官僚だけでなく、広く一般(地方公務員も含む)から募集することとする。
応募条件は、留学修了後に国家/地方公務員や公益法人、国際機関などで働き、日本国民として日本の国益に資する活動を行う意思のある者とする。

  • 官僚も募集の対象とするが、留学期間中は休職扱いとし、給与は支払わない。
  • 官僚以外で派遣が認められた場合、希望に応じて国家公務員のポストを用意する。
  • 派遣者の選考は有識者による選考委員会が行う。

留学修了後、国家公務員を辞職した(に就かなかった)としても、たとえばNPO法人や、社会性の高い企業、政治家など、日本の国益に資する活動である場合は費用の償還の必要はない。(この判断は曖昧であるが委員に委ねることとし、実質上お金は返さなくてもよいと思う。)
以上の制度変更をすることで、まず官僚以外の民間からの希望者との競争が生じ、派遣者の質が高まることが期待できるのと同時に、ある程度の公平性も担保できる。また、留学修了後の身分を完全には縛らないことで、より高い緊張感と意識をもった留学生活が期待できる。さらに、留学修了後の民間人材を政府が採用することにもなり、官僚の民間採用、官民の人材往来にもつながる。

さらにもう一つ、この奨学金派遣制度の対象者以外からも、修士・博士ホルダーを対象としたキャリア採用を積極的に行うべきだ。海外では公務員が修士や博士をもってるのは当たり前で、大半が自費で修得し、自分でキャリア設計を行っている。専門性を持ち海外経験を積んだ者を直接採用するほうが、全て賄って派遣するより、コストパフォーマンスが高いことは自明の理だ(私の勤める日本財団でも、基本的には海外の大学院修士修得者を採用している)。

以上は、官僚が国際的に通じる能力を向上させるための一方策だが、他にも改革すべきことは多いだろう。基本的には、硬直した官僚制度に風穴を開け、優秀で熱意ある人材が官・企業・国際機関・大学・NPOを容易に往来できるようにすることが、これからの日本には必要だと思う。そのために様々な施策を、官民一体となって大胆に早急に進めてほしい。

本山 勝寛
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