エネルギー安保を忘れていないか? --シェールガス革命の衝撃(要旨)

2013年05月22日 06:30

田中伸男IEA(国際エネルギー機関)前事務局長と池田信夫氏の対談について、読者に役立つように、発言要旨をまとめた。(本文記事

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1・原発政策について

【敦賀原発2号機下に活断層の存在が認定されたことについて】

原子力規制委員会が安全の認定を厳しくしている。もし仮に活断層が存在し、それによって原発の運用上危険があるならば、いくつかの原子炉の廃炉は検討することになるだろう。しかし敦賀2号機については、運営事業者の日本原電は活断層ではないと主張している。本当に科学的に妥当なのか、慎重に審査すべきではないだろうか。また今の政治状況では難しいかもしれないが、これを機会に古い原発を新しいものにするリプレイスを考えてもよいだろう。安全で効率の高い運用のためだ。

【原発の安全での貢献】

日本は原発の安全面で世界に貢献できる。人間が作った技術は100%安全ということはありえず、原発もそうだろう。しかし安全性を高めることはできるはずで、日本は福島原発事故の反省の上に、大きな役割を果たせるはずだ。

これから途上国で原発建設が増え、また日本には原発の製造ができる企業が多い。そこで福島事故を経験した日本が安全性の高い原発をつくり、運営するということはとても重い事実になる。

福島の原発事故はたいへんなもので、多くの人の関心が原子力の安全に向くのは、きわめてまっとうだ。ただし、それが原発を動かす、動かさないという問題だけに向くのは適切ではないと思う。広い視野で考えなければならない。

また今後は国際的な安全向上の取り組みが必要になる。これからは中国、ベトナムという国が、原子力を使う量を増やし、隣国の韓国やロシアも原発を使う。こうした諸国が適切に原発を運用せねば、日本の安全にもかかわる。

また福島事故の教訓は参考になる。東日本大震災で、安全だった原発の情報も役立つはずだ。地震と津波があっても東京電力の福島第2原発は事故に至らなかった。また東北電力の女川原発は高台につくり、津波の影響を受けなかった。日本原電の東海第2発電所では地震直前に津波対策が終わったため、非常用発電システムのひとつが壊れても残りふたつは大丈夫だった。

2・シェールガス革命の進行

【シェールガス革命をどのように評価するか】

私(田中氏)の事務局長時代にIEAはリポート「ガスの黄金時代がきたのか?」(Are we entering a golden age of gas? :World Energy Outlook 2011 – special report)を発表した。そこから始まった変化が予想をある面では越えて広がりを見せている。

シェールガスの大増産が本格的に始まったのが2011年ごろだった。2年経過してそれが具体的な形となってまったく新しい世界が生まれている。

シェールガス革命は技術革新によってもたらされた。昔からシェール層(頁岩層)はガスやオイルがあることは知られていました。それを、穴を横に掘って高い水圧の水を注入して水で岩を破砕し、そこからガスとオイルを地表にもってくる。この技術革新によって増産が可能になり、ガス、そしてエネルギーの価格に影響を与え始めている。

【シェールガス革命の経済的影響】

世界に影響が広がっている。ロシアのガス企業ガスプロムは10年ほど前から、北極海でガスを探査、採掘を行っていた。アメリカに輸出するためだ。それがアメリカが必要なくなったために延期されている。またカタールなど中東諸国では、天然ガスがだぶつき、ヨーロッパにLNG(液化天然ガス)に輸出している。この動きを受けて、ヨーロッパ諸国はガスプロムに、値引きを要求している。

他のエネルギー価格にも影響を与えている。アメリカでは石炭よりガスの発電コストが安くなってしまった。それで余った石炭をヨーロッパに売ろうとしている。ヨーロッパ諸国は温室効果ガスの削減のため石炭火力の抑制に動いていた。しかし排出権クレジット(別地域で温室効果ガスを減らしたという権利)が、今下落している。それを買って安い石炭の発電をする電力会社も出ている。

ロシアは天然ガスが他国に売りづらくなっている。ロシア政府やガス企業は、シェールガスの増産は環境負荷とか技術の問題があるので難しいので、それほど増えないと見込み違いをして対応が遅れているようだ。

そのために、ガス輸出の中心企業だったガスプロムへの批判が出た。そこで政府は権利を別の鉱山企業に与えて輸出を競争させるようになった。ロシアのこうした動きは日本にとって、いいことだろう。選択肢が増えるためだ。

【日本への影響】

日本には、シェールガス革命が深く関係するだろう。日本は原発の代わりに天然ガスによる発電を増やした。その追加費用は原発の停止で2012年度は3・8兆円、2011年から3年間で9・3兆円になる見込みだ。これは電力会社の負担、そして最終的には料金の形で、消費者に跳ね返る。さらに再生可能エネルギーによる固定価格買い取り制度が始まっていますからますます電力価格は上がるだろう。

これからの電力価格の予想がある。2035年をみると、中国は日本の3分の1以下、アメリカは日本の半分になる。中国は安い石炭火力を使うだろう。シェールガスの増産で、アメリカは今後エネルギー面で有利になると見込まれる。2035年に日本の発電に占める原発の比率が15%になるというシナリオをIEAは考えている。しかし、それでも高くなってしまう。(図表1)

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これだけ価格差の中で、日本の産業は中国やアメリカと競争する。この状況が慢性化すれば、製造業の国外移転は一段と進むかもしれない。

【アメリカはガス輸出国に】

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この図表2では、各国の推移を示した。2010年と2035年の推移では日本と韓国はガス、石油とも輸入依存度がほぼ100%だ。そしてEU、中国、インドも輸入依存度を高め、ASEANも自給率が減る。ところが米国は、一国だけ、ガスも石油も自給率が高まる。

これはアメリカにさまざまな良い影響をもたらしている。2013年になって米国の景気が好転し、株価が上昇してドルも強くなっている。これはガスの増産が影響している。アメリカの貿易赤字の4割がエネルギー輸入によるものなので、それが改善されるだろう。また、エネルギー関連業は給料が他産業に比べていいし、その雇用の増加は消費を刺激する。また安いガスを利用しようと、製造業に国内回帰の動きがある。メキシコ国境のマキラドーラ(輸入品を安くする制度、メキシコにある経済特区)地区で生産していた企業が、ガス産出地近くに工場を移したり、化学産業が国内に新工場をつくったりしている。

【世界の石油価格への影響】

シェールガス革命は、ガスと石油の関係でも影響を与えるようになった。これまで石油とガスは変動がリンクすることが多かった。ところが最近のアメリカでは、ガスが安くなる一方、石油価格が上昇するようになった。

シェールガスは多くの場合、オイルと共に産出される。オイルは石油と同じように売れる。ガスは、運搬にパイプが必要で先行投資が必要になる。そのために採算が取れない場合には、燃やしてしまうこともある。

ガスが安いままなのは需要が本格的に立ち上がっていないためだ。これがガス自動車の形で、石油に代わり自動車に使われるようになれば需要は大きく伸びるだろう。これがIEAの予想する「ガスの黄金時代」の完成だ。

3・日本は安いガスを調達できるのか

【日本は値決め方法の見直しを】

現在の日本のガス価格は、輸入時点で1MBtu当たり15ドル前後。3ドル前後のアメリカ、8ドル前後のヨーロッパと比べ、かなり高い。これには主に2つの理由がある。ひとつの理由は、日本は天然ガスを液化して生産地から運搬しなければならないために、コストがかかる。もうひとつの理由は、日本企業は石油価格にリンクして、天然ガスを長期契約で買う値決めをこれまでしてきた。(図表3)

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日本は石油の代わりにガスにエネルギー源を置き換えるという政策をかつて行った。そのために、石油を指標価格にした。そしてこれまでは、ガスと石油の価格がリンクする傾向があった。ところがシェールガス革命の後で、石油とガスの価格はリンクしない。それなのに古い値決めの形を続けている。もちろん原発を止めることで日本の電力会社がガスの調達を増やさなければならなかったため、売り手が強い態度で出ている面がある。

売り手との交渉は難しいかもしれないが、新しい値決め方法にして、価格を引き下げることが必要だ。経産省も最近の電力会社の価格査定で、安く調達することを指導するようになっている。これは交渉だから、こちらもそれに備えた準備することが必要になる。

【日本の安いガスの調達は遅れる】

またアメリカがシェールガスを日本に輸出することには時間がかかる。アメリカはエネルギーの外国への輸出には許可がいる。また国内の産業界からは、輸出をすると値段が上がるので、輸出するべきではないという意見が出ている。それをクリアして許可を得ても時間はかなりかかるだろう。「アメリカのシェールガスがあれば原発がなくても大丈夫」という楽観論が原発停止後の日本にあるが、そう簡単なものではなさそうだ。

私はガスのコスト引き下げのために、調達先を多様化するオプションを持つことで、売り手との間で交渉力を持つべきだと考えている。日本は中東とインドネシアからガスを買っているが、それ以外の生産場所もある。オーストラリアは、天然ガスを産出している。アフリカでは東海岸のモザンビークやタンザニアでガスが発見されているが輸送のインフラがない。こうした国々から調達をすることは可能だ。

そして原発による発電は、交渉を有利にするだろう。代替のためのガスを大量に買う必要がなくなるためだ。有利なガス調達の点においても、原発の利用は必要になる。

【ロシアの変化を活かす】

またエネルギー面でロシアは今後日本にとって大きな意味を持つだろう。4月の安倍晋三首相のロシア訪問で、プーチン大統領は「領土問題の最終的決着をはかる」という前向きな姿勢を示した。そして、いろいろな外交上の「玉」を投げてきている。その中でロシアは、ガスのパイプラインでの購入、極東での水力発電でつくった電気の購入も持ちかけているようだ。

実は、少し前に専門家が集まって、ガスパイプラインで北東アジアをつなげようという構想が出た。どの場所に引いたらいいかという青写真もできている。(図表4)

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中国は大気汚染を石炭火力での発電を、ガス、原子力に置き換えようとしている。ロシアはしたたかで、中国には高く買わないと、日本と韓国に売ると牽制している。こうした状況が産まれている中で、ロシアに「パイプラインでガスを売らないか」とこちらから提案をすることもありえるだろう。かつてはそのコストを誰が負担するということが問題になって立ち消えになってしまった。

しかし福島の後で日本は、天然ガスを大量に使う状況になっている。もちろん北方領土問題の先行きは不透明で、ロシアのエネルギー産業は政府が強く関与して先行きは不透明だ。しかし、エネルギー安全保障という観点からロシアとの交渉を深める選択肢はあっていいと思う。

4・シェールガス革命のもたらす地政学的変化

【エネルギー安全保障と国の役割】

「エネルギー安全保障」「Energy Security」という外国で使われる言葉を考えてみると、エネルギーが社会や経済の根幹にあることがはっきりする。国が関与しなければならない問題が、エネルギーではたくさんある。例えばエネルギー輸入がなくなった場合に備えた国家備蓄は、政府が行わなければできない。パイプラインのような大きなプロジェクトでは国が関与しなければならないだろう。今注目されるメタンハイドレートも、最初は国による調査、評価が必要だ。

【アメリカの外交の変化】

シェールガス革命は、米国の外交政策にも影響するだろう。図表「中東の石油がアジアへ」を見れば、2035年に中東の石油の購入量が増加するのは中国、インドだ。一方、アメリカはそれが低下していく。アメリカがエネルギーのために、中東にコミットして行く必要はなくなる。アメリカは「Energy Independence 」(エネルギーの自立)という掲げた政策目標を掲げていたが、それが達成されそうな状況だ。(図表5)

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もちろんアメリカが中東から完全に手を引くことはないだろう。しかし議会や世論が拒絶することはあるだろうし、また米軍が介入したときに、必ず「フリーライダーは誰だ」という話が出てくる。

中国は自力で、エネルギーを調達することを予想するためか、中東諸国との関係を深めています。中国が海軍力を強め、空母の建設と就役を進めている目的には、エネルギー確保があるだろう。

中東危機が起こったときに日本はどうするべきか。選択肢として軍事力の使用もあるため、海外での軍事行動ができない憲法の制約の問題とも関係する。「頭の体操」が必要になるはずだ。

5・日本の進むべき進路

【迫るイラン危機への準備を】

今の中東ではシリアの混乱に加えて、イスラエルとイランの開戦の危機が懸念されている。イランは核兵器に転用されかねないウランの濃縮を進めているようだ。昨秋までにイランが兵器に必要な濃縮ウランを手に入れたようだと、イスラエルのネタニヤフ首相が警告を発していた。しかし米国の大統領選挙があったためか、昨年は空爆をしなかった。

そしてイランは来年に兵器に使用可能な物質プルトニウムの製造が可能な重水を使う原子炉を完成させると予想されている。これまでイスラエルは、自国に使われかねない大量破壊兵器の存在を察知すると、アメリカや他国の意向に関わらず必ず攻撃をしてきた。

イスラエルが攻撃したら、イランはホルムズ海峡を封鎖すると宣言している。実際にしなくても「機雷をまいた」と言うだろう。そうすれば掃海のために、海上交通は止まる。日本の石油の8割、ガスは2割がこの海峡を通っている。しかも中部電力はカタールからのLNGに依存している。もし中部地帯の電力供給が不可能になったら、トヨタ自動車などのある中部の工業地帯も止まる。

万が一のための「緊急シナリオ」を国がつくらないと、大変なことになりかねない。3・11の教訓は、「想定外」のことが連続し、政府、企業で対応が混乱したことだ。中東危機は起こりえるシナリオだから、事前に準備はある程度可能であろう。もし再び「想定外」による混乱を繰り返せば「日本は何やっているのだ」という外国からの信用問題にもなりかねない。

【政策への提言・多様性の追求】

エネルギー問題で取るべき態度は、常にオプション(選択肢)を持つことだ。ここで英国首相だったウィンストン・チャーチルの話を紹介したい。チャーチルは第一次大戦前に海軍大臣として、英国海軍の艦艇のエネルギー源を、石炭から石油に転換した。その方が格段に艦の性能が上がったためだ。そこで国産のエネルギーである石炭から、海外に依存する石油にエネルギーを変えることは大丈夫かという議論が起こった。

その際にチャーチルは「多様化が安全を確保する」と述べた。エネルギー源を多様にする。調達先を多様にすることで、石油調達のリスクは減らせると説明した。この知恵は今も生きる教訓だろう。

化石燃料を使うにしても、その種類を、ガス、石油、石炭と多様にする。また調達先も多様にする。別のエネルギー源として原子力や再生可能エネルギーを使う。また使わなくてもいいように省エネを進める。これを可能な限り全部行うことがエネルギーの安全保障を高める。

ところが、原発事故のあと、日本の電力供給は火力に傾き、その状況は9割を越えているこれは第一次石油ショックの前の電源構成と同じだ。これは日本のリスクを高めている。分散、多様性の追求が必要ではないか。

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