就活・新卒採用・大学教育の問題を一挙に解決する「ボタン」とは --- 池田 信人

アゴラ

就活・新卒採用・大学教育。

この座標の異なる3点がそれぞれに抱える問題を解決するための「変化の歯車を動かす」ボタン。私は「求人情報(求人票)」こそが、ボタンになると考えています。求人情報は、学生と企業と大学を繋ぐものです。求人情報に手を加えることは、そこに紐づく3者、全てに影響を与える。つまり、絡まった問題を一気に解決することを期待しています。


求人情報にどのように手を加えるか? に関しては有識者間での検討があってしかるべきですが、個人的には「仕事内容」の一点に絞って手を加えれば良いと考えます。より踏み込むと「仕事内容をプロセス毎に分解する」ことが有効であると思っています。

どのような仕事であっても一定のプロセスは存在します。システムエンジニアの仕事であれば、企画→要件定義→設計→実装→テスト→納品といったプロセスが有り、営業の仕事であれば、アプローチ(顧客開拓)→ヒアリング(商談)→提案内容の企画→提案(プレゼン)→納品というようなプロセスが有ります。そのプロセス毎の仕事内容を丁寧に説明します。

たとえば、営業の仕事の場合、アプローチは「1. 新規開拓」なのか? 「2. 既存客のフォロー」なのか? 新規開拓であれば「1.1. テレアポ」なのか? 「1.2. 飛び込み」なのか? 「1.3. DM」なのか? テレアポの場合は「1.1.1. 自分」でやるのか? 「1.1.2. 外注」しているのか? 自分でやるのであれば「1.1.1.1. 顧客リスト」は誰が作成するのか? 「1.1.1.2. アポ獲得率」はどれぐらいなのか? 等々。こういった粒度で仕事内容を説明することができたならば、

  • 仕事から得られるスキルや経験
  • 仕事の遂行に必要な能力
  • 仕事の難易度

など、様々なことが可視化されることになるので、その結果として、就活・新卒採用・大学教育の風景も、がらりと変わっていくことでしょう。

いくつかの角度から、その変化の様子を見てみたいと思います。

●変化1: ブラック企業問題の抑止力となる

ブラック企業の「定義」だけでは解けない問題の解決方法とはというエントリでは、個人が「企業で働くことの実際をイメージする解像度を高めていくこと」が正しい解法であると主張しましたが、仕事内容の詳細化を進めることは、このアプローチを後押しすることになります。

同じ法人営業の仕事でも、A社の法人営業はテレアポの新規開拓重視の仕事であり、B社の法人営業は既存顧客からのリピート受注が重視される仕事であることが事前に分かっていれば、自分の性格や価値観、得手不得手から自分に適した企業(仕事)を選びやすくなる。そういった話です。

(ブラック企業を判別する情報としては平均勤続年数や離職率なども有効だと思いますが、仕事内容の詳細情報を頼りに、自分にとっての働きやすさを導くアプローチも同様に、あるいは、それ以上に重要であると考えます)

●変化2: 大学と企業との溝を埋める力になる

大学での勉学が新卒採用で評価されない、というのは本当かというエントリでは、ビジネスで求められる能力や経験と、大学における学業との乖離を説明しましたが、両者の溝を埋める一つの方法として、仕事内容の詳細化は役立つものと考えます。

企業側が仕事内容を詳細化する過程では、その仕事を遂行する上で求められる能力や経験なども可視化されるため、具体的な「求める人物像」や「応募要件」という副産物を得ることができます。

具体的とは言いつつも、営業の仕事であれば、抽象度の高い応募要件が記されることになると思いますが、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」のような概念を(企業と大学の双方が)下敷きにすることで、大学側はカリキュラムの継続的改善ができるようになると思います。

カリキュラムは、ビジネス講座のような新しいものを作る必要はなくて(大学が就職予備校化するのはナンセンスだと思っています)、既存のカリキュラムの中に「ディベート」「ディスカッション」「重めのレポート課題」「フィールドワーク」などの要素を編み込んでいくことが大切であると考えています。大学が「仕事を遂行するための下地を育む場」として果たせる役割は大きく、それは学業を通じてこそ達成できる。そのように信じています。

●変化3: 企業を評価する新しいモノサシになる

大企業と中小企業に「優劣」はないというエントリでは、大企業と中小企業に分類する従来のモノサシに代わる「企業を評価する新しいモノサシ」の芽が出てきていることを取り上げましたが、個人的には、仕事内容こそが新しいモノサシになると考えています。

就職してから退職までの40年前後、一つの企業に勤め続けるという年功序列・終身雇用のレールを信じることができているのは50代ぐらいまででしょうか。「ちょっと不安だわー(汗)」というのが40代で、「信じられるはずないですよ、何を言っているんですか(真顔)」というのが30代。20代にとっては「えっ、それってファンタジーですよね(笑)」という感じなのかもしれません。

「個」としての個別具体的なキャリアデザインの必要性は、今後もストップ高を記録し続けるがごとくの勢いで高まり続けると思われますので、「その仕事によって、どういった経験・スキルが得られるのか」「自分のスキルセット・マインドセットで成果が出せる仕事なのか」という方向に興味が向くことは自然なことであると思いますし、その方向性は、これから訪れるジョブ型の雇用の世界とも馴染みが良いと思っています。

こちら(内部者)からは以上です。

池田信人
株式会社ジョブウェブ 
個人ブログ