いやはや、小生、呆れてしまった。宮崎アニメ『風立ちぬ』の喫煙シーンに抗議した、NPO法人日本禁煙学会にである。報道を聞いた瞬間、腹立ちぬだった、『風立ちぬ』だけに。
ただ、これは客観的に捉えるならば、わかりやすい「売名行為」「炎上マーケティング」である。考察することにしよう。
まず、同団体による『風立ちぬ』に対する抗議についてだが、率直に、本当に、この団体は、これが、抗議文にある通り……
現在、我が国を含む177か国以上が批准している「タバコ規制枠組み条約」の13条であらゆるメディアによるタバコ広告・宣伝を禁止しています。この条項を順守すると、この作品は条約違反ということになります。
だと思っているのだろうか。「タバコ広告・宣伝」というからには、特定の企業・団体が広告・宣伝目的で投資しているかどうかが論点となるが、同作品のサイトを見る限り、タバコの売上に利害が関係する企業・団体はほぼ見当たらない。特別協力しているローソンは日常的にタバコを販売しているとはいえ、さすがにそれは性悪説すぎるだろう。
私もこの映画を映画館で初日に見たが、たしかに同団体の抗議文にあるとおり、「肺結核で伏している妻の手を握りながらの喫煙描写」はどうかと思ったが、これはフィクションである。このシーンに対して善悪の感情や、賛否は起こっても、それが悪しきタバコ文化を助長しているかというと、そうでもないだろう。むしろタバコ文化に対する問題提起とも言える。
抗議文には、こんなことも書かれている。
また、学生が「タバコくれ」と友人にタバコをもらう場面などは未成年者の喫煙を助長し、国内法の「未成年者喫煙禁止法」にも抵触するおそれがあります。事実、公開中のこの映画には小学生も含む多くの子どもたちが映画館に足を運んでいます。過去の出来事とはいえ、さまざまな場面での喫煙シーンがこども達に与える影響は無視できません。
この団体は、コンテンツがタバコに与える影響、相関を科学的に証明できるのだろうか。タバコは値上がりしている上、TASPOの導入などで未成年にとって買いにくいものになっているのだし。
そもそも、この作品が賛否を呼んでいる理由として、「庵野秀明氏の素人っぽい声優はどうよ」とか「この時期に戦争の描写ってどうよ」とか、フェミ系社会学女子からは「女性の描き方ってどうよ」などというものがあるが、大きな批判として「子供にとって面白いのか」というものがある。率直に、子供にとっては理解できない部分だらけなのではないだろうか。
やや余談だが、私がこの映画を見て、エンドロールの映像と、ややネタバレだが(いや、当然予想できるから書くが)ユーミンの「ひこうき雲」が流れ、余韻にひたっていたときに、その雰囲気をぶち壊しにするガキがいた。
「もう終わりかよ-!」
と叫んだのである。日本のサブカル家庭教育、マナー教育の荒廃を感じたり、一方でロックを感じたりもした。とはいえ、彼の気持ちはわからなくもない。子供には理解しにくいのである。
子供への悪影響を言うならば、今まで出たヤンキー漫画、同じ宮崎アニメでも『紅の豚』や、古くは『未来少年コナン』の艦長風の男まで、いちいち抗議すればいい。
そう思って、同団体のサイトを見たのだが、いちいちドラマや映画に対して抗議をしているようである。いや、網羅的でもないようだが。
ただ、客観的に振り返るならば、私が確認しているだけでこの24時間以内にヤフトピを2回とった今回の騒動を見ていると、同団体の取り組みには「売名行為」と「炎上マーケティング」の極意が詰まっているように感じた。
・いま、流行っている有名なものに抗議してみる。
→これ重要。マイナーなアニメに抗議してもここまで話題にならない。国民的ヒット作品に抗議したからこそ、話題になる。
・抗議声明に彼らなりの正義が貫かれている(そして、それが理解されにくいものになっている)
→そこまで言うのかよ、という空気を醸成している。
・普段の活動が(彼らなりに)マジである
→これも重要。今回のことだけなんちゃってで抗議しているわけではない。さらに、それが民間人から見ると、突っ込みたくなる内容になっている。
・スポーツ紙→ヤフトピという流れ
→何らかの媒体が報じていて、それがヤフトピにのり拡散するという流れ。
・あらかじめ、サンドバッグになる覚悟ができている
→これは売名行為、炎上マーケティングの流儀なのだろう。
というわけで、売名行為、炎上マーケティングを考察する上で、なかなか好材料だった。
筆者も先日、炎上を考察するラジオ番組に出たところ、その番組が大炎上するという事件を経験した後だったので、興味深かった。
さて……。この映画を見て、タバコを吸い出す子供たちはいるのだろうか。実際、どうなのだろう。
追記(2013年8月15日 9時25分)
読者に教えてもらったが、偶然なのか?今週末には日本禁煙学会が開催されるらしい