福島第一の水漏れ対策は「風船爆弾」 --- ヨハネス 山城

アゴラ

ロイターの報道によると、

政府・東電は、配管などが通る地下トレンチ内の高濃度汚染水の除去や地下水の汲み上げなどによる「緊急対策」と、井戸による地下水の汲み上げや海と陸にそれぞれに遮水壁を設置する「抜本対策」を行うことで、汚染水の海への流出や敷地内地表に溢れだすことを防ぐ計画を示している。

という。

必死で作業してはる現場のひとには申し訳ないけど、やってることの内容については、アホかと言いたい。汚染水の除去も地下水の汲み上げも、これまでやってきたことばかりやないか。


まず、除去装置のアルプスは、水漏れがなおらず再稼働の目処もたっていない。結構な費用をかけて、一時しのぎのタンクを大量増設しているところを見ると(毎日1基のペース)、すぐに使えるようになるとは思えんがな。いったい、どないして、最終的に除去をするん気や?
 
地下水の汲み上げは、是非ともやるべきやと思う。もともと汚染水の除去は、メルトダウンした炉心を冷却した水を再利用するためのものやったはずやが、敷地内に毎日1000トンの地下水(小学校のプール三杯分)が流入して、そのうち300トンが汚染水になるという現状や。

敷地よりうんと上流で、地下水を汲み上げ、バイパスを作って海に流すのが唯一の効果的な時間稼ぎやろ。環境中に放出される放射性物質を最小限にする気があるなら、海水が敷地に逆流するとか、汲み上げによる地盤沈下で既設のタンクに危険が及ぶとか、漁業関係者が激怒しているとか、言うている場合やないやろ。緊急対策と言えるのはこの部分だけや。

それよりもっと情けないのは、「抜本対策」の方や、汚染水の流出経路がわかってないのに、敷地のどこに「遮水壁」とやらを作るんや。海の方にしても、港湾内の水をせき止めても、海底の地下水の出入りまで把握せんことには、飾りものにしかならん。

だいたい、流出を全部きれいに止められたとしても、流入する地下水と敷地内に降る雨水を処理せん限り、いずれどこからか溢れ出ることになり、汲み上げが必要になる。ということは、ポンプを大増設して汲み上げに専念するほうが、現実的かつ安上がりや。

もちろん、除去装置がきちんと動かない限り、単なる時間稼ぎにしかならんが、何もやらんよりは、はるかにええがな。

今回の「緊急対策」「抜本対策」は、過去に出来なかったことを、大問題が発生してから「やります、やります」とかけ声をかけただけのことでしかない。「すんません、お手上げです」と正直に言うと、国の信用自体が丸つぶれやから「何ぞ適当に言うとけ」ちゅうわけやな。

末期症状。本土空襲が激化してから、風船爆弾を作り始めた68年前の状況とよく似ている。効果的なことが何もできないので、やった気になれること、形のつくれること、に努力の方向が向く。本来、原子力を推進する立場のIAEAが黙ってられなくなったのもようわかる話や。

今回の汚染水の処理、結局、東電では手に負えなくなって政府が乗り出してきた。何回も言うが、現状の技術を前提とする限り原子力発電は資本主義と相容れへん。再稼働を目指すなら、こういう問題の処理や国際的な賠償まで引き受ける覚悟の保険会社を、見つけることが大前提や。

当然、ロイズのような再保険がバックにつくことになるが、誰か、保険料を試算してみてくれんかのう。天文学的な数字になってしうやろ。ワシがかねがね「再稼働は引き合わんから無理や」、と言うているのはこれが理由や。

あるいは逆に、「日本人が今更、放射線を怖がっても仕方ない」と、開き直ることもできる。今後、放射線関係の補償は、東電も政府も、国内外とも一切拒否するというのはどうやろ。自然災害と考えてあきらめてもらう。実際、原賠法の規定はそうなっとるはずや。当然、世界中から非難され、制裁もあるやろが、そろも覚悟の上の話や。

今後、海外からの漁業補償の要求が出てくることが予想されるが、「完全拒否」ができるかどうかはともかく、今から腹をくくっておくべきやと思うがのう。

今日は、これぐらいにしといたるわ。

ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト