日米の著作権法の権威による講演会(その1:米国)

2013年12月16日 16:50

12月7日、早稲田大学で開催された「著作権法学の将来」についての公開講座は、基調講演で日米の著作権法の権威がそろい踏みする豪華な講演会だった。2人とも権利制限の一般規定であるフェアユースをテーマに講演した。フェアユースは利用目的が公正であれば、著作権者の許諾なしの著作物の利用を認める規定。講演内容を筆者なりに要約し、注で補足しながら紹介する。


主催したのは早稲田大学知的財産法研究センタ―で、2013年度JASRAC秋学期連続公開講座の最終回だった。最初にカルフォルニア大学バークレー校ロースクールのパメラ・サミュエルソン教授が、「著作権制限への原則に則ったアプローチについて」というテーマで講演した。

時代とともに強化されてきた著作権

・1790年に制定されたアメリカの著作権法では、排他的な権利は印刷や出版などに限定されていた。排他的な権利の侵害は、同一またはほぼ同一の複製を行った場合にのみ認められ、改良や翻訳は侵害にならなかった。また、保護を受けるためには登録などの「方式の履行」が必要であった。
・時間が経つにつれて、権利の範囲は拡大した。例えば印刷だけでなく、複製に対しても排他的な権利が認められた。逆に方式については緩和された。そこで、アメリカの裁判所が発明した権利制限の一つが複製権を制限するフェアユースであった。
・ベルヌ条約(1886年)の影響で著作者に幅広い排他的な権利を付与し、権利制限については個別の規定を設けるのが一般的になった。日本もこのベルヌモデルに準拠して、幅広い排他的権利を付与すると同時に、私的使用や引用など数多くの個別の権利制限規定で排他的権利を調整している。しかし、一般的な権利制限規定であるフェアユースは認めていない。

個別的制限規定 v. 一般的制限規定

・アメリカは混合型の権利制限規定を設けている。フェアユースという最も広い解釈を可能とする制限規定を置いている。しかし、アメリカ法でも権利制限規定の大半は個別の制限規定である。
・個別的制限規定と一般的制限規定を比較すると、個別的制限規定は明確かつ予測可能である 許される行為と許されない行為がユーザーにわかる などのメリットがあるが、時として複雑になり、理解しがたいものとなるというデメリットがある。一般的権利制限規定には以下のメリットがある。
 - 急激な変化を遂げる時代への柔軟性や適応性に富む。
 - 利益衡量のプロセスを通じて、著作権の規範的性格を明確にできる。
 - 既存の制度に適合しない新しい利用方法が生まれるたびに、新たな立法をする必要がない。  

フェアユース規定のメリット- 新技術の促進

・フェアユースは新技術を促進するとして、具体例をあげて紹介した。まず、ソニー事件で、CDからHDDやiPodに音楽をコピーする行為はフォーマットシフティングとして認められるとした。

注:ソニー事件は無許諾録画を可能にするVTRを開発・販売した米国ソニーを映画会社が訴えた事件で、1984年に米最高裁は利用者が昼間のテレビ番組を録画しておいて夜視聴する、つまりタイムシフティングしているだけなので、フェアユースにあたるとした。

・ソニー判決によって、音楽や写真などのクラウドストレージや遠隔地でテレビ番組を視聴するSlingbox などのサービスも可能になった。

注:Slingboxは日本でもソニーが販売したロケーションフリー(ロケフリ)と同じテレビ番組遠隔視聴機器で、時期も同じ2005年に開発された。ところが、ロケフリを使用したテレビ番組遠隔視聴サービスの「まねきTV」が2011年に最高裁で違法判決を下されたため(詳細は「まねきTV事件」最高裁判決でクラウドも国内勢全滅の検索エンジンの二の舞か?)参照)、ロケフリは2012年に販売中止に追い込まれた。
対照的にSlingboxに対しては訴訟すら提起されなかった。教授の指摘するとおり、訴えてもソニー判決が適用されて、フェアユースが認められるからである(詳細は「著作権法がソーシャルメディアを殺す」第4章参照)。

・ケリー事件やフィールド事件からは、インターネットアーカイブのWayback Machine サービスが可能になった。

注:ケリー事件やフィールド事件はグーグルの書籍検索サービス合法化によりますます拡大する日米格差(その1) で、まとめて紹介したウェブ検索サービスに対する3件の訴訟のうちの2件。
Wayback Machineは過去のウェブページをアーカイブ(文書保存)するサービスで、このサービスに対する著作権侵害訴訟は提起されていない。運営するインターネットアーカイブが非営利団体で、かつ歴史的資料の保存という社会的に意義のある目的を果たしているため、当然フェアユースが成立すると思われるからである。
日本は2009年の著作権法改正で遅ればせながら、検索エンジンのデータベース作成のため複製が認められるようになったが、それもキャッシュ(一時保存)までで、Wayback Machineのような永久保存は認められない。このため、東日本大震災後、貴重な資料となった震災前の被災地の景観を保存した資料などもWayback Machineのような米国のサービスに頼らざるを得ない。

フェアユース規定のメリット-その他

・フェアユースには以下のようなメリットもある。
 - 忙しい立法府での争いを避けることができる。
 - 裁判所の方が、より本質的な分析ができる。
 - 立法時に交渉に参加していない新規参入者の利益を考慮できる。
 - 市場の失敗を修正できる。市場の失敗はグーグルが書籍検索サービスに対する訴訟で主張した最も強力な反論の一つで、検索用のデータベース作成のために本1冊ずつ権利処理するのは膨大なコストがかかる つまり市場を形成するにはコストがかかりすぎる と指摘して、フェアユースにあたると主張した。

注:グーグルの書籍検索サービス合法化によりますます拡大する日米格差(その1) のとおり、国会図書館は明治期の書籍をデジタル化する際に権利者を捜し出して、許諾を得るために膨大なコストをかけた。資源に恵まれない日本の方がフェアユースがないために資源の浪費を強いられているのである。

・個別権利制限規定は著作権の利用が固定的な少数の利用者にのみ影響する場合は、有意義だが、多くの人に利用されるようになった場合は、その法律の規制対象となる者に対しても理解できるものでなくてはならない。
・フェアユースは日常生活に適用される一般人にとって、膨大な数の個別制限規定よりもわかりやすい。この規定によって、著作権法の信頼性を高めれば、公衆の著作権法に対する遵法意識も高まる。

米国以外の導入状況および結論

・米国以外の国でも柔軟性を獲得する努力がなされている。フェアユース規定についてはイスラエル、シンガポール、フィリピン、韓国が導入積みで、導入国は増えつつある。
・結論として、権利制限規定は成熟した著作権法の極めて重要な部分を占めている 日本はフェアユースのような規定を有していないことにより著作権法が急速な技術の変化に適用できず不利益を被っている アメリカのIT産業はフェアユースに大きく依存しており、それによって繁栄している とした。

城所岩生

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