金融市場の終わり

小幡 績

続きである。

今回のアルゼンチンの危機、新興国の通貨危機が世界的な危機にならない第三の理由は、新興国の対応が進歩したからである。


インドでは、私にとっては馴染みのある(いつもセミナーで顔を合わせていただけだが)、ラグラジャンが金利を引き上げて対抗し、タイも基本的にはタフなスタンスを取り、今回もトルコ中央銀行は、投資家たちの予想を大きく上回る金利大幅引き上げで、通貨下落に対抗した。

これは大きな進歩で、これまでであれば、後手に回りがちであり、国内景気を心配する政治圧力により引き上げよりも、米国金融政策を非難することではけ口をつくっていたが、これは何の役にも立たない。何よりもまず自国通貨の価値を維持する。これが経済の基本中の基本であることを、パリバショック、リーマンショックで新興国は学んだのだ。ユーロを使っていなかったハンガリーがいまだに立ち直れずにいることからも明らかなように、通貨価値を守ることこそが経済政策の基本なのだ。だから、アイルランドはGDPのマイナス成長や失業率は恐ろしいほどだったが、財政再建及び通貨価値維持により、何とか回復したのだ。

日本の政治家や欧米の金融有識者よりも、新興国当局の方が遥かに進んでいるのであり、新興国の政治リーダーは大きな利害が目の前にあるから、先進国の実質的に経済を動かせない政治家達よりも遥かに金融市場と経済を理解しているのだ。だから、新興国経済は、以前とは質的に異なって脆弱ではない。学習しない国、アルゼンチンだけが自滅していくだけなのだ。

第四の理由は、より深遠というより、根本的で、かつ単純だ。金融市場の力がなくなったのである。

もはや、金融市場はどうでもいい。

金融市場が、今回いかに動揺しようとも、それが、自作自演であれ、本当の投資家の損失であれ、実体経済にはほとんど影響はない。

主従関係は完全に逆転した。もはや金融市場が世の中や実体経済を動かすことはない。実体経済は淡々と動き、それに金融市場があわせたければあわせればいいし、自爆したければすればいいのだ。バブルを作りたければ作ればいい。

金融市場の危機が伝播する理由は2つ。銀行が介在することと、投資家だけでなく、世の中が動揺することだ。

今回は、というか、リーマンショック後、ようやく、この2つの誤った、無駄な連鎖が断ち切られた。

一つは、英米を中心に、銀行規制を再度強化したこと。これは素晴らしい。

投資銀行たちは、今回の株式市場の大幅改善でも、それほど勢いを取り戻していない。もう簡単に儲けることができなくなったからだ。だから、リストラは依然続いているし、唯一突っ込むのは、新興国、いや、まだ手垢に染まっていないBOPだ。逆に言えば、実体経済に大きな動きのあるところを食い物にしようとしているだけで、やはり実体主導なのだ。

第二に、世間も、ようやく金融市場の愚かさ、いや、それに振り回されることの愚かさに気付いたのだ。

量的緩和の出口を心配、批判しているのは、市場で売り損ねた人々だけだ。日本の量的緩和が最後の砦で、4月以降、圧力がかかるだろうが、日本のメディアや政治家は騙せても、黒田総裁は騙せないだろう。日銀は、反応しないはずだ。

今回のFRBは出口戦略を淡々と進めた。新興国の通貨危機に全く配慮しなかったという批判や驚きがあるが、批判や驚きを口にした人々を、我々はよく記憶しておく必要がある。彼らは、インチキか確信犯か、ただのアホかだ。彼らの言うことを、今後、一切聞いてはいけない。マーケットの混乱に乗じて儲けるのが仕事であるならば別だが、まっとうな人々は気にすることはない。

そして、世界はまっとうになってきたのだ。

だから、選挙も市場も、退屈に氾濫してきた人々は単に無視されることになるだろう。

市場の混乱の出口も米国雇用統計発表の前までだろう。

気にすることはない。