首都移転で少子化対策と地方創生を

本山 勝寛

お盆期間を那須で過ごし、改めて首都移転について考えてみた。結論から書くと、東京一極集中がいろいろな点で限界を露呈してきている今日、首都機能移転は日本にとって意味のある施策であるように思う。

安倍政権は地方創生本部を設置し、秋の臨時国会に関連法案の提出を目指すなど、地方創生を重要テーマに掲げている。少子高齢化とそれによる地方の過疎化、衰退は今後の日本にとってナショナル・クライシスとも言える危急の課題だ。


少子化という点でいうと、その要因の一つとして、出生率1.1前後の東京が地方の若者をブラックホールのように大量に吸収し、子どもの少ない世帯を多数生み出していることが挙げられる。メディア上でよく問題視されている待機児童についても、首都圏をはじめとする大都市圏を中心とした問題だ。東京の一極集中と超少子化問題を克服しなければ、少子化対策や地方創生は絵に描いた餅になる。

土地の少ない東京になんとか保育園を新設することもさることながら、東京に備わっていた政治の中心としての機能を移転することにより、一極集中状態を分散化させ、過密状態を緩和させることも検討すべき選択肢だ。国会や官庁跡地を商業施設のみならず、子育て支援に有効利用することも考えられる。

もう一つは、首都移転を地方創生のシンボルと起爆剤にする効果も期待できる。移転先は東京からのアクセスがよく、かつ大都市圏ではない地方が好ましい。本格的に議論されていた1999年の国会等移転審議会の答申では、具体的な候補地として、那須塩原を中心とした栃木・福島地域、岐阜・愛知地域、三重・畿央地域が候補地として挙がっていた。いずれの地になるにせよ、もし首都移転が実現すれば、その地域と周辺の活性化につながることは言うまでもない。たとえば、那須塩原であれば栃木県の周辺地域への人口流入も期待できるほか、福島空港からも近く福島の復興を後押しする効果も考えられる。

さらには、これまでメディアや情報、文化、政策にいたるまで発信地が東京一辺倒だった日本のシステムに変動が起きることで、各地方の多様な個性、魅力が重視される流れがうまれることも期待したい。たとえば、政治は新首都、経済は東京、エンタメは大阪、歴史文化は京都、研究は筑波・茨城、観光は沖縄や北海道、防災は東北といったように都市の特徴をそれぞれ際立たせることにより、人材を各地に分散化しながら集積させるようなビジョンと政策が必要ではないだろうか。少なくとも海外を回ると、ワシントンDCとニューヨーク、オタワとトロント、キャンベラとシドニー、ブラジリアとサンパウロ等々、首都と最大都市が異なる国は多く、しっかりと機能している。

もちろん、首都直下地震が発生した際のリスクを軽減させる意味合いもある。今後30年以内に70%の確率でM7の大地震が首都圏で起きると推測されている。その際には、主要企業の本社のみならず、内閣、国会、霞ヶ関が一遍に崩壊機能停止し、災害対策の司令塔機能を失うこともあり得るのである。阪神淡路大震災と東日本大震災を経験した日本だからこそ、その教訓を重く受け止め、様々なリスクを軽減する政策を実施すべきだ。

2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。その2020年には東京でも人口減が始まると予測されている。新しい日本のビジョンを描けなければ、少子高齢化の日本は衰退の道を辿るしかないだろう。首都移転はその新しいビジョンのシンボルとして位置づけられるのではないだろうか。

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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
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「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。