時代錯誤の「日帝」史観 - 『帝国の慰安婦』

2014年11月24日 02:33
帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い
朴 裕河
朝日新聞出版
★★☆☆☆



著者は韓国で慰安婦問題について事実にもとづいた論文を発表している数少ない研究者で、本書の韓国語版は慰安婦の関連団体から出版差し止め訴訟を起こされた。このような困難な状況で本書を発表したことには敬意を払うが、著者の歴史観は古く、論理が混乱している。

著者の指摘している事実は、おおむねその通りだ。朝日新聞などが「軍による強制連行」があったというのは事実無根だが、右派のいうように左派が「反日」の意図をもってこの問題を取り上げたわけではない。彼らは主観的には、日本の「アジアに対する戦争犯罪」を謝罪するためには、多少の誇張があってもしょうがないと考えたのだ。

問題は慰安婦の位置づけである。タイトルにもあるように、本書は慰安婦問題を日本の「帝国主義」のもたらしたものと考える。著者はさらにアメリカも「帝国」だとして、朝鮮戦争のときの慰安婦も指弾する。もちろんこれはネグリ=ハートの<帝国>ではなく、古典的な帝国主義である。

しかし日本の大陸進出は、ヨーロッパの帝国主義とはまったく違う。それは丸山眞男もいうように、もとは朝鮮の開国派と日本が提携する(同盟国になる)構想だったが、清が介入したために、併合という不本意な形をとらざるをえなかったのだ。朝鮮はロシアの南進を防ぐ前進基地であり、丸山でさえ「朝鮮がロシア領になったら日本の独立は危なかった」という。

つまり日本帝国が領土を求めてアジアを侵略したのではなく、ロシアの南進に対抗する戦争のための「自給圏」を構築することが朝鮮支配の目的だったのだ。伊藤博文も朝鮮を併合して軍の満州進出を止めようとしたが、陸軍は満州へ出て行き、さらに南進して「帝国主義」的な日中戦争を行なった。

このときも、よくいえば領土欲はなく、悪くいえば何のために中国を占領するのかわからなかった。この盲目的な戦線拡大こそ日本軍の最大の失敗であり、大英帝国のように(よくも悪くも)目的意識のはっきりした帝国主義とは違う。

だから(実体のない)慰安婦問題なんかどうでもよく、本質的な問題は日本の朝鮮支配とは何だったのかという地政学的な認識である。それを昔ながらの「日帝の大陸侵略」という図式で描く本書には、残念ながら学術的価値はない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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