ヘッジファンドのフォンドオブファンズは必要か

森本 紀行

ファンドオブファンズというのは、それ自体は、個別具体的な投資を行うのではなくて、複数のファンドに投資することを通じて、よく分散された投資を実現する技術的な工夫である。


故に、中に入るファンドは、ヘッジファンドの戦略である必要はなく、普通の株式だろうが債券だろうが、あるいはプライベートエクイティだろうが、何でもいいわけである。でも、おそらくは、この仕組みが一番普及しているのは、ヘッジファンドの分野、それからプライベートエクイティの分野であろう。

ヘッジファンドに投資するときに、ファンドオブファンズを使う利点は何か。

一つには、簡便な方法だということがあろう。ヘッジファンドというのは、一つ一つ細かく吟味して選ぶとなると、そのこと自体が高度に専門的な資産運用の技術になってしまうという問題がある。ヘッジファンドのファンドオブファンズの運用者は、投資家に代わって、専門家としてヘッジファンドの選択を行う機能を果たしているのである。

ヘッジファンドは、数え切れないくらい存在するのであろう。私も、いくつあるのか知らないが、千の桁にあるのは間違いない。こうなると、本当に優れたヘッジファンドを選択しようとすれば、個別の有価証券の選択と同じくらいに、むしろ、それ以上に、面倒な仕事をしなければならなくなる。ここに、専門家に委ねるだけの合理性が生まれるのである。

しかし、専門家の助言が必要だとしても、だからといって、ファンドオブファンズという仕組みが必要だ、ということにはならない。

実際、ファンドオブファンズの仕組みを使わずに、専門家の助言を用いて、自ら個別のヘッジファンドに投資している投資家もいる。しかし、ファンドの選択だけでなくて、投資の実行面にも専門性が要求される。

ヘッジファンドというのは、事務的な手続きなど、投資の実行も面倒なのである。ヘッジファンドの市場というのは、何一つ標準化されていないような世界だ。ヘッジファンドの重要な特色が柔軟性にある以上、これは当然である。

設定地一つとっても、有名なケイマンだけではなくて、バミューダ、ジャージーなど、色々なところが利用されている。様々に異なる構造をもった多数のファンドに投資するということには、完全に標準化された株式を公開市場で取引することに比して、全く異なった種類の事務能力が要求される。

もちろん、分散されたヘッジファンド運用が簡易にできること、これこそが、本質的な利点であると、普通には、考えられるのである。しかし、本当に、ヘッジファンドというものは、たくさんのファンドに分散投資しなければならないものなのか。

ヘッジファンドを厳格に狭く定義すると、分散は、それほど重要ではないはずである。論拠は、市場価格変動をヘッジするからヘッジファンドなのだ、という定義にある。分散投資の重要な意義は、予想し得ない市場価格変動を、複数の市場価格変動構造の異なる資産を組み合わせることで、相殺させようとする試みである。だとすると、この限りでは、ヘッジファンドに分散投資は必要ないであろう。

また、もしも、ヘッジファンドが本当に市場価格変動から独立で、ヘッジファンド相互においても、それぞれが独立した収益構造をもつならば、独立したものをいくら混ぜても、分散効果は上昇しないはずなので、意味がないと思える。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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