言論アリーナでもGEPRでも議論したことだが、政府の「温室効果ガス26%削減」も「原発比率20~22%」も、今のままでは不可能だ。原子力規制委員会の安全審査を待っていたら、2030年までに動く原発はたかだか15基で、その穴を埋めるのは石炭火力だろう。コストが圧倒的に安く、供給が片寄っていないからだ(再エネは問題外)。それでいいのだろうか。
これは電力会社にとっては、実はありがたい話だ。彼らは京都議定書で火力の削減を迫られ、困っていた。原発なんてもともと国策でやったもので、国がハシゴをはずしたら終わりだ。既存の原発は低コストだが、これから新設しようという電力会社はない。核燃料サイクルに投じたコストは大きいが、今となってはサンクコストだ。
日本の石炭火力は比較的クリーンなので、これは日本としては必ずしも悪い解ではない。中国では年間120万人が石炭の大気汚染で、1万人が炭鉱事故で死んでいるといわれるので、中国から石炭を輸入するのは、ドイツがフランスの原発の電力を輸入するのと同じ「公害の輸出」だが、原発のようにマスコミが騒がないので、電力会社にはありがたい。
問題はCO2が増えることだが、名目的に削減目標の辻褄を合わせるのはむずかしくない。このままでは排出量は増えるが、京都議定書のときと同じように排出権を中国から買えばいいのだ。これは杉山大志氏もいうように、社会的コストは低い。地球温暖化による環境破壊は、人類が工業化でやっている破壊に比べたら、大したことはない。
究極的な目的は「原発か否か」とか「温暖化か否か」という道徳的な問題ではなく、エネルギー供給と環境悪化のトレードオフの中でどこを選ぶかという経済問題だ。これ以上プルトニウムを増やさないという点でも、石炭火力は妥当な解かも知れない。来週火曜の言論アリーナでは、この問題を澤昭裕さんと本音ベースで議論する。