ベンチャーキャピタルの極意

2015年06月02日 11:30

起業というのは不確実な将来へ賭ける行為だから、ベンチャーキャピタルにとっては、起業家の構想を信じるしかない。しかし、ベンチャーキャピタルが投資として成立するためには、単に信じるのではなくて、科学的方法によって、信じることが実現していく確率を制御できなければならない。


出資先企業への積極的な経営支援、いわゆるハンズオンも、その一つの方法である。しかし、成功確率を制御する方法はハンズオンに限らない。分散を徹底すれば、成功確率は平均値へ収束するから、予測可能性は高くなる。

個々の起業の成功確率は制御し得なくとも、多数の起業が行われ、その合計が、全体として、社会に対して付加価値を創出しているのであれば、分散戦略は、それなりに有効である。ただし、優れた起業案件に少数投資する場合に比較して、収益率は低くならざるを得ないと考えられるが、収益率は、高さが問題なのではなくて、その安定的な実現確率が問題だとしたら、幅広い分散戦略というのは、それなりに意義のあることである。

日本のベンチャーキャピタルについては、ハンズオンの弱さと小金額を広範に分散投資する戦略の問題性を指摘されてきているが、ハンズオンを強くして投資先を絞る戦略(米国の戦略の主流はこちらだとされている)との比較において、優劣を論ずべき性格のものではない。

日本流といわれるやり方は、結果として投資収益率の低さにつながったとしても、収益率の質という意味での評価の可能性は十分にある。

しかし、それは、日本の起業が全体として成果を生むという前提である。その前提が崩れたら、意味を失う。起業という厳しい競争は、全体としては成果を生まずに、少数の成功者のみが成果を生むということであれば、ハンズオンと投資先の厳選ということは不可避である。もしかすると、日本でも、そういう転機が生じているのかもしれない。

ところで、この投資先の数を減らすことは、一つの投資先に対する投資額を大きくするということにつながる。では、この大きな金額を投資するということもまた、成功確率を制御する一つの方法なのだろうか。逆に、一つの投資先に大きな資金を投資することは、危険ではないのか。

確かに、危険だが、危険を制御することになるかもしれない。豊富な資金量は、経営の展開力を増し、競争の条件そのものを変えてしまうこともある。例えば、同業他社を潰してしまう、あるいは買収してしまう、そういう攻撃的経営も可能になる。

時間もそうである。時代の転機を捉えた優れた事業構想でも、その転機が訪れる時期を正確に読むことはできない。しかし、構想が優れていれば、転機はくる。時間をかけた待ち伏せ戦略をとることができれば、成功できる。しかし、そのためには、大きな資本をもたねばならない。

ここに、おそらくは、ベンチャーキャピタルの本来の機能があるのである。金融は、所詮、金融である。金融自体に新しい価値を創出する力はない。しかし、金融は、起業に対して時間の猶予を与えることで支援することはできる。ベンチャーキャピタルの機能は、起業に大きな時間の猶予を作ることである。だから、エクイティなのだ。エクイティは時間である。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
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