「飛べるかどうか疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」——日銀の黒田総裁が3日、2015年国際カンファレンスでピーターパンの物語を引用した言葉です。米5月雇用統計を受けドル円が125円を超え2002年6月以来のドル高・円安へ振れた後、黒田総裁は10日「さらなる円安はありそうもない」と発言。「かなりの円安になっていることは事実」などと合わせ円に羽根を与えるような発言で、市場を沸かせました。
主要7ヵ国(G7)首脳会議の席で、オバマ米大統領が「ドル高は問題」と言及したとの報道が話題になり米大統領自身で火消しに回った後での黒田発言ですから、否が応でも関連性を疑ってしまう。オバマ米大統領がG7会合で安倍首相の訪米当時よろしく、背中に手を回し「安倍ちゃん、頼むよ~」なんて寄りかかった様子すら頭に浮かんでしまいます。
折しも、ケリー米国務長官とカーター米国防長官が連名で8日付けUSAトゥデー紙に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)妥結に必要な貿易促進権限(TPA)法案の早期成立を米議会に求めたばかり。TPA法案の通過に為替不正操作国への罰則を盛り込む動きが出ていることは、先にお伝えした通りです。
約2円も急落とは、逆ブラック・マジック恐るべし。
(出所:Investing Via Business Insider)
TPPをめぐっては、アメリカで引き続き懐疑的な見方も多い。ワシントン情報サイトのザ・ヒルも、真っ向から反対するメリーランド大学のエコノミストで教授を務めるピーター・モリシ氏の寄稿を掲載しています。理由として、1)中国市場参入には合弁会社設立と同国内での生産を義務付けられている、2)特許侵害のリスクに直面、3)日本や韓国では自動車メーカーの談合、規制で普及が困難、4)日本や韓国は世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)の規約に違反し為替を割安に設定——などを理由に挙げており、中国人民元を含め為替問題への懸念もしっかり盛り込まれていました。
アダム・キンジンガー米下院議員(共和党、イリノイ州)は、TPA法案につき米下院指導部が12日に採決を目指すと発言していました。ただ民主党の反対多数が予想され、通過には「際どい」と予想しています。
本日の「北野誠のFXやったるで!」でお届けたしように、足元でユーロやポンドなどドル高修正が入っているなか、対円ではドル高が加速度を増していただけにTPA採決を控えスピード調整を余儀なくされたと考えられます。この方のご指摘の通り、黒田総裁は実質実効レートを引き合いに出しており「円だけが突出して安くなることはないとの見方を示したと解釈できる」。従って今後は急速な円高が進むというより、急速なドル高ペースこそ修正されていくのでしょう。
(カバー写真:Toru Hanai/Reuters Via WSJ)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年6月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。