「安保法案に憲法学者のほとんどが反対」とか「学者1万人が平和主義を訴える」とかいうニュースが出ていますが、こういう人たちの理想としている「平和主義」って何でしょうか?
戦争が好きな人はいないので、「戦争主義」ということばはありません。英語で平和主義(pacifism)というのは、単に平和が好きだという意味ではなく、「武装しないで敵が攻撃してきても反撃しない」という無抵抗主義なのです。
こういう考え方は昔からあり、それほど変な話ではありません。「ケンカしても手を出さない」という心がけは、友達どうしでは大事です。特に宗教では、聖書に「右のほおを打たれたら左のほおをさしだせ」ということばがあるように、攻撃されても反撃しないことが道徳的とされています。
しかし国と国の間では、こちらが武器をもっていなくても、相手が仲よくしてくれるとは限りません。その場合も、戦争で死者を出すより降伏したほうがよい、というのが一方的非武装主義という考え方です。これも理屈としては成り立つもので、有名な経済学者の森嶋通夫さんは、1979年に次のように論じました。
万が一にもソ連が攻めてきた時には自衛隊は毅然として、秩序整然と降伏するより他ない。徹底抗戦して玉砕して、その後に猛り狂うたソ連軍が殺到して惨澹たる戦後を迎えるより、秩序ある威厳に満ちた降伏をして、その代り政治的自決権を獲得する方が、ずっと賢明だと私は考える。
これが憲法第9条の考え方です。憲法制定のときの国会でも、吉田茂首相は「自衛のための戦争も放棄する」と答弁しました。森嶋さんの考えるように、ソ連や中国が日本に「政治的自決権」を認めてくれるなら結構なことですが、東ヨーロッパやチベットをみても、そんな期待はできませんね。
このように憲法は自衛のための戦力も否定している、というのが憲法学のふつうの理解です。朝日新聞の憲法学者に対するアンケートでも、次の図のように121人中の77人が「自衛隊は違憲だ」と答えています。
参議院でまた同じような騒ぎを繰り返してプラカードをかかげたりするより、憲法第9条は今のままでいいのかを考え、与野党の接点をさぐってみてはどうでしょうか。