吉永小百合さんはなぜ原爆の加害者をいわないの?

2015年08月10日 12:34

原爆

吉永小百合さんといえば、団塊の世代のアイドルです。彼女の行動は、ある意味で戦後の「リベラル」なマスコミの縮図です。その吉永さんが朝日新聞で、「これからも初心を忘れないで原爆の被害を伝え続けたい」といっています。

原爆の悲惨な被害を伝えることは大事ですが、それだけで原爆を2度と使わないようにすることはできません。原爆を落とした加害者は誰なのか、それは何のために落とされたのか、なぜ戦争に関係のない人まで大量に殺したのか、などをきちんと追及しないと、核兵器をなくすことはできません。

広島の平和記念公園にある原爆死没者の慰霊碑には「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれていますが、この文章には主語がありません。この碑文は日本語で書かれているので、「日本人は過ちは繰返しませぬから」と解釈するのが普通ですが、これは変ですね。

原爆を落とすことを決めたのはアメリカのトルーマン大統領ですから、これは「アメリカ人は過ちは繰返しませぬから」と書くのが正しい。でもこの慰霊碑ができたころは、日本はまだアメリカの占領のもとに置かれていたので、そんなことを書くわけには行かなかったのです。

この主語は「人類」だという人がいますが、人類が人類に対して原爆を落とすことはありえない。それは戦争で敵国に対して落とすものです。アメリカは、当時の敵国だった日本の降伏を早めるために落としたのだと言い訳しています。

しかし当時の日本は、東京など主要都市の大空襲で何十万人も民間人が殺され、軍需工場も壊されたので、もう戦争を続ける能力はなくなっていました。1945年7月26日に日本に降伏を求める「ポツダム宣言」が出されました。

これに対して日本が降伏しないと答えたのなら、早く降伏させるために原爆を落とすことには意味がありますが、日本が正式の回答をする前の8月6日に広島に原爆が落とされたのです。爆撃の予定は、ポツダム会議の前に決まっていました。

「原爆を落とさなかったら本土決戦で多くのアメリカ兵の命が失われた」という言い訳も成り立ちません。現実には、ソ連が参戦した直後の8月14日に、日本は降伏しました。昭和天皇は本土決戦に反対していたので、どっちにしてもそれは行なわれなかったでしょう。

かりに原爆が終戦を早める効果があったとしても、そのために20万人以上の民間人を殺すことは正当化できません。これは「戦争に関係のない人を殺してはいけない」という国際法に違反しています。

つまり戦争責任を清算していないのは、アメリカなのです。今さら「おわび」しろとはいいませんが、民間人をたくさん殺したことがルール違反だったと認め、今後はそれを許さないために核軍縮を進める必要があります。

だから「過ちは繰返しません」と誓うべきなのはアメリカ人なのですが、今までアメリカの大統領は、ひとりも広島に来たことがありません。来たら当然「原爆を投下したアメリカの責任をどう考えるのか」という質問を受け、答に困るからです。

吉永さんが心を痛めている被爆者のような犠牲を二度と出さないためには、祈っているだけではだめです。彼女がオバマ大統領に「広島と長崎に来てください」と手紙を出せば、返事ぐらいは来るのではないでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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