実は対外借金漬けの中国経済

中国経済の現状と今後を探るに当たって、武者陵司氏の最新レポート「外貨逼迫する中国、脆弱な対外金融力、再元安不可避に」が大変参考になる。

(中国の)貿易黒字・経常黒字が中国経済を牽引したのは2009年まで。それ以降中国経済成長を牽引したのはもっぱら投資で、それを可能にしたのは巨額の対外純資本流入であった。この資本流入に大いなる変調が起きている。ここに中国のアキレス腱がある。

これまでは次のように言われてきた。

「中国は世界最大の貿易黒字国で、その結果外貨準備高は世界最大の4兆ドル弱。第2位の日本の3倍だ。中国は世界最強の金融力を持っている」

だが、これは誤りで、実は中国の外貨準備高は巨額の外貨、借金に依存していた。それが今回の経済変調と金融危機で露呈した。貸し手の主体は中国人や華僑系資本家。直接投資、株式投資という名の、(厳正な審査を伴う)金融機関を介さない、またはデューデリジェンスを経ない資金だと、武者氏は見ている。

対外金融力の象徴とされている外貨準備高も実は過半が他国資本に依存したものであるとすれば、中国の対外金融力は相当に脆弱であると言わねばなるまい。

武者レポートによると、中国の外貨準備高のうち自国資本の裏付けは37%に過ぎず、63%は外国資本によって支えられている。一方、日本の外貨準備高は対外純資産の41%であり、フルに自国資本によって裏付けられている。

だから日中間では外貨準備高に3倍の開きがあるのに、米国国債保有高は日本1.22兆ドル、中国1.26兆ドルとほぼ拮抗している(2015年7月末)。

真の金融力は対外純資産額なのだ。2015年3月末の対外純資産が日本は2.9兆ドル(349兆円)であるのに対して中国は1.4兆ドルと半分しかない。中国の対外金融余力は日本の半分に過ぎないということだ。

中国の外貨準備の過半は借金漬けで、華僑系資本が回収に大きく動いたら、「上げ底」の外貨準備高は急速にしぼんでしまう。実際、その動きは始まっており、人民元切り下げはそれを加速しようとしている。と言って、ドル売り元買い介入すれば、金融緩和の効果がなくなる。

すでに中国の賃金はアジア新興国の中でも最高で、価格競争力が衰えている。輸出をふやすには元安は不可欠となっているのだ。だが、それは対外資本の流出を加速させる……。その二律背反に中国はいま、追い込まれている。

こうした中国の経済不安を増幅させているのが、習近平政権による腐敗退治とそれに伴う権力闘争、および南シナ海、東シナ海への軍事的進出である。米国は軍事的な対外膨張の抑止に動いており、経済的な支援はありえない。

では、中国の経済変調の世界への影響はどうなるか。この点、武者氏は比較的、楽観的だ。

中国リスクは対中債権の大半を保有する、華僑資本が影響力を持つ国に集中しており、米日欧先進国への波及は限定的とみられる。先進国は経済拡大の途上にあり、世界リセッションの可能性は低い。加えて中国リスクの高まり、世界的株価下落に対しては各国では追加的政策、量的金融の増額、財政拡大が打ち出され、それも株価を支えるだろう。他方中国でも超弩級の景気対策、資本取引規制や為替統制、市場価格操作などが打ち出され、一定の成長復元、市場の鎮静化がなされる公算もある。当面リーマンショックのようなスパイラル的悪循環の可能性は考えにくく、一方方向の株価下落にもならないだろう。当面振幅の大きなアップダウンが繰り返されるのではないだろうか。

ただし、それは当面のことであり、中国の抱える潜在的リスクの大きさに対しては、武者氏は厳しい目を向けている。

中国人の急速な少子高齢化と、社会保障の未整備。大気・水質汚染の広がりと社会資本の不備。自由・民主主義の欠如による商品・市場創出力の脆弱さ……などを考えると、中国の前途には暗雲が垂れ込めている。それが経済的な悪影響のみならず、対外軍事緊張を高めることはないか。しっかりと見つめて行く必要があるだろう。