減少する日本企業の株式持ち合い

岡本 裕明

名刺交換して、お互いを紹介する際、たまに自慢げに言われてしまうのが「弊社は○○グループで…」という威圧でしょうか?グループ化することでメリットがある場合は良いのですが、いわゆる財閥系、旧財閥系のような結びつきを胸張って言われると「古い!」と思ってしまいます。

私が長年ビジネスをしていてあまり好きではないことの一つにお互いの一定の関係を理由に猛烈な値引きを要請されることであります。これは日本企業に非常に多く、要請される側はそれなりに理由をつけて渋々了解しているのではないでしょうか?了解する側の論理は「長年構築した関係を維持するため」でありますが、よく考えれば一般顧客より3割、4割引きの提供をする見返り以上の長年の関係のメリットが本当にあるのでしょうか?

株の持ち合いは上場会社間に於いてその関係を密にするという発想の日本独特の風習と言ってよいかと思います。ウィキによると1973年に法人持ち合いを含む安定株主比率が66.9%に達したということです。その後も持ち合いだけで見ると大体2割ぐらいの比率で推移していました。日本はこの「安定」という言葉にかなり魅力を感じるようで他企業からの買収攻勢などにあった際、守ってくれる、自社製品の販売を持ち合いの関係を通じてお願いするなど、でありましょうか。

株の持ち合いがなくても優良大口顧客というだけで会社は社員にいろいろ押し付けてきます。私が建設会社の社員だったころはビールの銘柄からフィットネスの会員まで「これ」というのが決まっていました。社員間で飲みに行く時、他社ビールを注文しようなら「まずいんじゃない」という声がかかりました。当時、自分のお金で飲むのに自由がないとかなり疑問に思ったりしていましたが。

その持ち合いも大手銀行や日産自動車が日本的商慣習に破壊的衝撃を与え、その後、長い時間をかけて持ち合いの関係は薄れてきています。更には持ち合い相手の会社の株価が大きく下落した場合に決算に反映されることも実務的に芳しくないという方向を生んだと思います。

そんな流れの中、今さら日経が「脱、持ち合い株へ企業動く」と記事を配信しています。今回の特徴は「持つメリット」のように思えます。これは何を意味するのでしょうか?一つは企業の財務基盤がしっかりしてきたため、いざというときでも頼らなくてはいけない状態が減っていること、企業活動が足かせのない自由な形で展開しやすくすること、固定資産を流動化させる財務戦略、そして株高に伴い、売却益が出やすい環境にあることではないでしょうか?

今、ビジネスシーンでは「昨日の敵は今日の友」、あるいはその逆になったりします。そして異業種混合による新たなビジネス展開をどう推進していくかが大きな戦略となっています。その中で持ち合いという「親戚関係」が時として邪魔になることはあろうかと思います。つまり、企業を取り巻く環境は激変し、プロジェクトごとにそのパートナーを見つけ、一定の目標を達成したら解散するドライさと機敏さが必要になっているともいえます。

「親戚関係」が必ずしもウィンウィンを意味しないことは皆さんの本当の親戚関係を見ても分かるでしょう。円満で前向きで成長ある関係が長期にわたって維持される保証はありません。

今さら「持ち合い解消」という気もしますが、企業の在り方がどんどん変化していく流れでこれも必然な動きな気がします。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月1日付より