軽減税率の新聞に求めたい説明責任 --- 中村 仁

2015年12月16日 18:00

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公正な実売部数で競争を


定期購読されている宅配新聞は8%の軽減税率が適用されることが決まりました。標準税率は10%ですから、2%分の200億円相当が全体で軽くなります。10%が適用される一般業界や紙媒体ではないネット業界からは、「なぜ新聞が優遇されるのか」、「なぜ紙媒体が例外扱いされるのか」と、批判が聞かれますね。

新聞界が連日のように軽減税率導入のキャンペーンをやってきた裏事情を推測すれば、軽減税率制が実現すれば、新聞にも適用されうるという駆け引きがあってのことでしょう。「民主主義の維持には、表現、言論の自由を支えている新聞の社会的役割が不可欠」、「欧州などではすでに新聞の税率はかなり低い」などと新聞界は主張してきました。

これに対しては、「同じような役割はネット、電波媒体も果たしている」、「中国、ロシアにも新聞があるのに、民主主義国とはいえない」などの反論があります。欧州が新聞に消費税(付加価値税)軽減を適用したころと比べ、「民主主義社会の社会的基盤を構成するメディアの多様化」「それに伴う新聞離れ、それがもたらす新聞社の経営悪化」が急速に進みました。「だから紙媒体を支援すべきだ」なのか、「もはや紙媒体だけを優遇すべきではない」なのか、議論は平行線です。

気になる目立たない記事の扱い


今回の決着は、与党協議で本質的な議論がなされないまま結論が出されました。恐らく自公政権と新聞界の距離の近さによるのでしょう。創価学会・公明党は大部数の聖教新聞を発行していますから、利害関係者そのものでした。不透明な要素があっただけに、新聞社は良識をもって、社会に説得力のある説明をしていかなければなりません。どうももやもやしたものがあるのか、日経の3面2段見出し(16日朝刊)をはじめ、記事では目立たない扱いでしたね。

どのように説明責任を果たすべきなのか、申し上げましょう。まず「14年4月の消費税3%引き上げ(8%へ)で販売部数がどの程度減ったか、つまり新聞離れが起きたか」の説明です。現在、読売は900万部程度、朝日は700万部前後と、それぞれ100万部近い減少です。東日本大震災の影響、朝日の場合は誤報・捏造問題が絡んでいますから、この減少は消費税の影響ばかりでないでしょう。

消費税と新聞離れの因果関係が不明


また、部数減少は14年4月以前から急速に始まりました。発行(印刷)部数争いから、販売店にかなりの部数が売れずに滞留していたという業界共通の病弊がありました。読者に売れていない新聞にも消費税の支払い義務が生じ、新聞側の丸損になるので、滞留部数を整理(削減)したとされます。実はこれが部数減の最大の要因になっているという分析が聞かれます。時系列にそって部数の動向を示せば、消費税引き上げと新聞離れの相関関係が分るはずです。ぜひお願いしたいところです。

今回の軽減税率は、個別配達(宅配)される定期購読部数、つまり正確な実売部数が対象になるわけです。本来、宅配がほとんどである新聞に滞留部数(積み紙ともいう)が生じるのは不自然です。それらを削減すれば、無駄な印刷、無駄な輸送がなくなり、コスト削減にもつながるはずです。新聞の経営悪化は自ら招いているところがあり、これをどう考えていくかです。

次に、こうした病弊は発行部数(名目部数)の競争が背景にあり、その背景には、新聞広告料金が部数に左右されるという仕組みがありました。新聞広告がネット広告に食われ、新聞社の経営悪化の原因ともなっていたので、名目部数にこだわったのです。

名目部数にこだわる理由は減ったはず


最近では、発行部数(名目部数)と販売部数(読者の手許に届く実部数)の差に、広告代理店、広告主が敏感になり、実際の広告効果(反応、反響)に沿った料金を求めるようになっているはずです。実態を反映しない部数の意味がどんどんなくなっているのです。ですから、公正な部数を掲げて競争する慣行を確立する機会にできるのです。部数競争のあおりでコンビニ、キオスクには過剰に新聞が供給され、大量の売れ残りが毎日、発生しています。これを含めどうするのでしょうか。

経営悪化という点では、新聞社自らネット新聞、ネット情報の提供をビジネスにしています。日経がネット対策で先行し、ついで朝日新聞でしょうか。紙媒体の部門収支の危機を深めることが分っていながら、ネット化を進めなければ生き残れない。紙媒体が軽減税率なのに、新聞社は自ら紙媒体の比率を下げていかざるをえない。深刻さが増していく大問題ですね。

最後に、新聞の消費税が8%に据え置かれても、新聞社が購入する用紙、インク、機材はもちろん、大きな収入源である広告売り上げ(広告費)には10%の標準税率が適用されます。新聞制作のコストは相当、増えるのです。料金を据え置けば大きな赤字要因になり、新聞料金に転嫁しようとすれば、「軽減税率なのになぜ値上げするのか」という批判を受けます。各社が同じ幅で値上げすれば、公正取引委員会がなんといってくるか。これも悩ましい問題です。

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2015年12月16日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた中村氏に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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