寝たきり老人で儲ける方法 --- 山本 直樹

寄稿

少し前に、生活保護(生保、せいほ)の受給者がパチンコに行くのが是か非か、って議論がありました。他人の血税をもらって遊ぶとは許せない、というのもわかりますが、ぼくら医者からすれば、毎月受け取る保護費の中でやりくりするのならたいした話ではありません。彼らが保護費とは別枠で使っている医療費(医療扶助)の方がケタ違いに大きいからです。

2014年度の生活保護費は3兆8431億円でその半分が医療扶助です。生保受給者158万世帯のうち138万世帯、87%が医療扶助を受けています。彼らは医療費の自己負担ゼロですし、受けられる医療にも制約はありません。高額な医療も懐が痛まずに受けられます。

ここに悪徳病院がつけ入るスキが生まれます。かつて奈良県に山本病院(廃院)というのがあって、生保の患者に不要な手術をして死なせてしまったり、不正請求の限りを尽くして2009年に警察沙汰になりました。亡くなった患者さんにはお気の毒と思います。

ここまで極端でなくても、医療扶助を巧みに使って病院の赤字を埋めていたり、とりっぱぐれのない高額医療を行っている病院は少なくありません。また自己負担がないことで、病院や患者にモラルハザードが起きている面もあります。

例1)※(追記あり)

80歳代男性。家族と折り合いが悪く、「介護施設に入れると金がかかる。家で死なれても面倒だ」として、自宅の一室で寝かされている。認知症だがかろうじて自分で食事をとっている。介護サービスはなく、食事は若い家族と同じものが枕元に届けられる。カツカレーを嘔吐し、ご飯粒をのどに詰まらせて誤嚥性肺炎となり、入院。

この方、同居でしたが無年金でもあり、「世帯分離」という技で生活保護を受けていたようです。医療費が無料なので家族からいろいろ指令が来ました。寝たきり老人ですから、患者の預金通帳を管理しているのか家族です。どんな形であれ、患者が生きている限りはそこに保護費が毎月15万ぐらい振り込まれます。だから、家族は無理矢理でも延命を希望するのです。

呼吸状態が悪化して厳しい状態と宣告したところ、「金は一切出さないが、とことんやれ。死なせるな」とのご意向で、気管挿管、人工呼吸器の装着など高額な医療を行い、一命はとりとめましたが、完全に寝たきりとなりました。

認知症も進んで食事もとれなくなり、これまた家族の強い要求により、胃瘻と人工肛門をつくって転院となりました。今は手足の関節がかちかちに拘縮して、おむつ交換もままならないものの、数年経ってまだ存命のようです。透析もされていて年間1千万円以上は医療費がかかっていると思われます。

例2)

40代女性。シングルマザーで子ども3人。全員父親が違うらしい。生保受給中。15歳で喫煙をはじめ、今は1日60本。10代の子どもたちも喫煙者。息切れや咳がひどくなったので受診。末期の肺がんと診断された。ネットで「オプジーボ」という新薬が効くらしいと知って受診。「医療費タダなんだから、一番効く薬を使え」と強く主張されました。

オプジーボを使うと月間300万円もの医療費がかかります。実に年間3500万超。一般の人は高額療養費という制度のおかげで自己負担は月10万程度になります。(年収によって変更あり)。そこまでしても余命が数か月延びるかどうかです。

この方、タバコをやめるつもりは全くないようです。医者としては、誰かが払ってくれた血税を使って治療させてもらう以上、病気を悪化させることはスパッとやめてもらうのが道理だと思います。話し合いましたが、「医療はタダで当たり前」「他人のもの(カネ)は俺のもの。俺様のものは俺のもの」というドラえもんのジャイアン的なマインドを変えられないのは、本当に残念ですが、治療は淡々とせざるを得ません。

毎月の給与明細を見ると、かなりの金額の社会保険料が引かれています。誰か困っている人のために役立てばという思いでいるのですが、残念な方を目にすると、わたしも一社会人としてため息が出てきます。

残念なケースを取り上げて、考えていただければと思います。

山本 直樹     総合内科医

※編集部より:例1の記述について読者から「わかりづらい」とのご指摘があり、山本氏が一部追記いたしました。(5日16時30分)