三菱自動車を待つ会社整理の危機

2016年04月28日 20:50

国際化時代における不正の代償

三菱自動車の燃費偽装は、恐らくこの名門企業が社会から抹殺されかねない規模の事件に発展するでしょう。不正車両の買い取り、リコール費用、余計に支払わされた燃料代の払い戻し、供給先の日産に対する補償、株価下落の損害賠償請求、規制当局が課す課徴金、適用を受けた環境軽減税の返却など、処理にいくらかかるのか想像がつきません。海外輸出先における損害賠償も巨額になるでしょう。

さらに91年から25年間にわたり、法令とは異なる不適正な試験で燃費データを計測していたといいます。企業倫理上、時効で打ち切りというわけにもいかないでしょう。一企業がこれだけ盛り沢山の不正の処理に迫られるケースは稀です。「三菱までがなぜ」と、絶句します。会社を挙げての対応が必要で、自動車生産どころでないでしょう。経営学の教科書がこの事件だけで一冊、書けます。

このところ大企業の不祥事、経営危機が続発しており、経営者なら「徹底的に社内調査をしてみよう」という気にならければおかしいのです。独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正事件で、対象57万台の買い取り、顧客補償、賠償金は総額で1兆円を超えるともいわれます。同じ自動車業界ならば、「うちは大丈夫なのだろうか」と、内部点検を急ぐはずです。

経営者は薄々、知っていただろう

今回の事件が発覚したのは、内部調査でなく、軽自動車を供給していた日産が昨年11月に気づき通告したと、されています。「経営者は何を考えていたのか」という思いが先で、「第一報が日産から」とは、にわかに信じられません。トップを含め、不正の構造は薄々、知っていたと想像するのが普通です。どこから手をつけていいのか分からないほど、闇が深いので、ばれるまで、知らんふり続けようだったのではないでしょうか。

名門企業、東芝で社長が3代続けて、粉飾決算に手を染めていました。染めていたというより、粉飾を指示してしていたというのが正しいでしょう。瞬く間に一流企業に成長したシャープは、トップの経営判断の誤りで会社を行き詰らさせ、台湾の巨大企業に買収されました。

経済、産業のグローバル化、さらに急テンポの技術革新で、取引先や販売先は多国にまたがり、企業組織が巨大になっています。巨大化のメリットがある反面、不祥事が起きたときの損害額が巨額で、企業の命取りになります。経営者はそのことを熟知し、大胆かつ細心に企業経営にあたらねばならないことくらい、経営学の教科書に載っていますよ。

支援の御三家に余力はない

三菱自の将来を予想すると、支えてきた三菱御三家はゆとりを失っています。三菱重工は各種の特損に苦しみ、三菱商事は資源安の打撃を受け、三菱UFJ銀行は利ザヤ縮小に直面しています。2000年のリコール隠しによる経営危機の際に、御三家が支援に乗り出した時期と違います。しかも、カネさえ用意すれば、三菱自を再建できるというものではありません。たとえ生産再開となっても、消費者が喜んで買いますかね。

三菱自は自力で再生を図ることは至難でしょう。次々に襲いかかる賠償金に対して、売れる資産をすべて売らないと支払えないかもしれません。不正が発覚したのは、今のところは軽自動車4車種にとどまっています。スポーツ多目的車、電気自動車などの車種に不正に飛び火したらどうなるのでしょうか。

軽自動車を含む小型車についても、燃費競争が世界的に激烈で、それに打ち勝つ研究開発費が用意され、人材が投入されうるのか。それが絶望的だったために、燃費データ不正に手を染めたのです。自動車は環境対策、安全対策、自動運転化対応などに資金がかかります。IT企業の進出、かれらとの提携なしに生き延びられません。三菱自はそれができますか。

自力では三菱自は生き残れまい

ありうる選択は、軽自動車については、大手メーカーの下請けか系列企業になることです。発注先の指示、監督のもとならば、自動車生産の手伝いをできるかしれません。多目的車、電気自動車部門に資産価値があるなら、身売りすることです。「三菱」の看板を下ろすことです。東芝もメディカル部門を売却して、債務超過への転落を防ぎました。浮いた従業員はグループ企業が引き取ることです。

苦し紛れに手を染めた不正が社内で広がり、長期化し、明るみにでると、企業の存亡に波及する。市場が世界中に広がっており、各国から訴えられる。規制当局の責任追及は過酷で、企業がつぶれそうになっても意に介さない。そんな恐ろしい時代に入ったことに気づかない企業は淘汰されるのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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