解明されていない量的緩和のメカニズム

日銀の黒田総裁は20日の慶應義塾大学の講演で、今年1月に導入を決定したマイナス金利付き量的・質的金融緩和について、これまでの量的・質的金融緩和の延長線上で、その効果を一段と強化するものであり、いわば「enhanced QQE」とでも呼ぶべきものであると発言した。

総裁はマイナス金利の導入について、「イールドカーブの起点を引き下げることにより、大規模な長期国債買入れと相まって、短期から長期にわたる実質金利をさらに押し下げることを狙っています。」とコメントしている。

現実に2月9日に日本の長期金利は初めてマイナスとなり、すでに15年を超える期間の国債利回りがマイナスに転じている。日銀のエンハンスドQQEにより、名目長期金利が大きく引き下がったことは事実である。

黒田総裁は日銀のバランスシートの対名目GDP比が今年3月末で約81%まで拡大し、FRBのバランスシートの名目GDP比が同じく3月末時点で25%しかないことで、日銀の金融緩和の規模の大きさを示した。この効果について黒田総裁は下記のようなコメントをしている。

「しかしながら、量的緩和がどのような環境の下で、どのようなメカニズムを通じて、効果を発揮したのかは、必ずしも十分に解明されているとは言えないように思います。」

さらにバーナンキ前FRB議長の下記発言も引用している。

「量的緩和の問題点は、現実には効果が認められるのだけれども、理論的には効果が説明できないことである」

量的緩和政策のメカニズムについては、はっきりとした波及経路への解釈はいまのところない、ということになるのであろうか。さらにバーナンキ前議長の指摘している「現実には効果が認められる」との発言についても、効果ということは物価への効果であるはずが、現実には物価目標が達成されていない事実についてどのように解釈すべきなのであろうか。

これについて黒田総裁は下記のような発言をしている。

「特に、国や地域によって金融システムの構造が異なることを考えれば、大規模な資産購入の対象となる金融市場だけでなく、その金融システムを通じた波及メカニズムなど、国や地域による違いを明示的に取り込んだ分析も必要になってくると思われます。」

この分析に関しては2001年から2006年にかけて行った量的緩和政策も参考になるのではなかろうか。今回の量的・質的緩和についても3年以上経過していることで、ある程度のデータも蓄積されており、分析を行う必要があろう。それでもし量的緩和と物価上昇に関して、日本に於いては波及メカニズムになんらかの支障があるなどといった結論が出た際には、日本の国債市場が機能不全に陥る前に大量の国債買入の見直しを行うという選択肢も考慮すべきなのではなかろうか。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。