地価公示を続ける必要はあるか

山田 肇

参議院選挙期間中ということもあり社会的関心は今一つだが、春の行政事業レビューが実施されている。民主党政権下での事業仕分けには政治の意思に沿わない事業を切り捨てるという側面が強かったが、現政権での行政事業レビューは国民目線で総点検するのが目的で、いっそう地味な印象がある。

今日は国土交通省の行政事業レビュー公開プロセスに参加した。俎上に上った事業一つひとつについて、どんな議論があったかを紹介しよう。

40年以上続く事業が批判された

地価公示は、今日もっとも批判された事業である。年に1回、全国25000地点を、1地点に二人ずつ、計2500人の不動産鑑定士が現地に出向いて鑑定し、調整した結果が公示されている。不動産鑑定士への謝金総額は35億円にも達する。1970年から続く事業だが、続ける価値はあるのだろうか。ネットで様々な情報が取得できる今では、現地調査の価値は70年代よりもずっと低いという指摘が出た。議論の末に、世の中に流通している大量のデータを元に地価を公示する新システムに移行する可能性について、調査研究することになった。

港湾公害防止対策事業にも、同じように、長すぎるという問題があった。東京湾では1972年からヘドロのしゅんせつを続けているが、10年ほどでまた溜まるため、何度もしゅんせつを繰り返している。永遠に事業は終わらない。再度ヘドロがたまるのは大雨の時に下水が溢れるためだそうで、この大本を絶たなければならない。この観点で事業を抜本的に見直すという結論になった。

経済性評価が欠如した事業があった

公的賃貸住宅長寿命化モデル事業は、公営住宅をバリアフリー化するなどして長く使えるようにしようという施策である。しかし、モデル事業として実施されているものに、同規模の住宅を新築するのと同じ金額をかけていることがわかった。新築すれば70年使えるのに、築50年に近い住宅をバリアフリー化して何の意味があるのだろうか。今は建築工学の専門家しかいないモデル事業対象の選定委員会に、経済性を評価できる専門家も参加するように改善すべきという結論になった。

国際会議等の誘致・開催の促進は観光庁の事業である。国際会議参加者は数日間一か所に止まるために、普通の観光客よりもたくさんの金をその都市に落とすという。日本で国際会議を開く魅力を海外で宣伝したり、国際会議のレセプションを城や神社で開催できるようにしたり、といった施策を観光庁は実施している。しかし、この誘致事業を知っている人は少ない。各都市が国際会議の誘致に乗り出すように、実際の国際会議を対象に経済効果を評価して結果を公表するなどの努力が求められた。

他局・他省との連携が求められた

交通運輸技術開発推進制度は、総合政策局が実施している研究開発プログラムである。自動車局、港湾局、都市局など各局がそれぞれに研究開発を実施しているのに、それに加えて、オーバーヘッド部門でも実施する必要があるのかが争点となった。基礎的・横断的な項目を選んでいるというが、明示されているわけでもない。また、各局の側で規制緩和するなどしないと、総合政策局単独では研究開発成果を社会に提供できない場合もある。基礎的・横断的な研究開発を実施すると宣言したうえで、各局との連携などについてマイルストーンを明示すべきという結論になった。

環境対応車普及促進対策は、事業用のバストラックに環境対応車を普及させる事業である。すでに春日部駅周辺でプラグインハイブリッドの公共バスが巡回しているそうだ。このようなバスは、いざというときに避難所に駐車して電源車として利用できる。このように、他省も含め、まちづくり事業や防災事業と連動させるのが適当という結論が出た。

地下街防災推進事業は直下型地震などの際にも地下街の安全を保つことを目的とした事業である。地下街は公共通路のように使われたり、帰宅難民の一時避難場所に利用されたりしている。民間経営の地下街でも補助するのは、このような公共的な側面があるからだそうだ。しかし、地下街運営会社は補助を積極的には求めてきてはいない。そのため、2015年度の予算執行率はわずか23%に止まった。建設時期の古い首都圏の地下街に的を絞ってオリンピック・パラリンピックまでに実施するといった優先付けが必要という結論になった。地下街の非常用電源として、プラグインハイブリッドの公共バスを利用するという可能性もある。ここでも、他局との連携が求められた。

公開プロセスはニコ生で実況された。当日の資料もすべて公開されている。行政事業レビューには行政の透明性を高めるという側面もある。また、結論は大臣・副大臣・政務官に伝えられる。