極右政党「自由党」、EU政策を修正

余り気づかれていないが、オーストリアの極右政党「自由党」副党首であり、大統領候補者のノルベルト・ホーファー氏は「欧州連合(EU)から離脱は考えていない」と強調し、「EUの改革が進まない場合、1年以内にEUに留まるかを問う国民投票を実施したい」と答えた先月の発言を修正している。

オーストリア大統領決選投票は10月2日、やり直しが行われることになったが、極右政党「自由党」の大統領候補者ホーファー氏は、同国代表紙「プレッセ」の9日付のインタビューの中で、「EU離脱はわが国にとって望ましくはない。私はEUが改善されない場合とトルコのEU入りの場合という条件でEU離脱を問う国民投票の実施を提案してきただけだ」と強調し、現時点でEU離脱を問う国民投票実施を要求する考えはないことを明らかにしている。

ホーファー氏は英国のEU離脱決定直後の日刊紙「エステライヒ」(6月25日)とのインタビューの中で、「EUが加盟国の主権国家を尊重せず、ブリュッセル主導の政治を継続するなら1年以内に国民投票を要求する」と述べた。それに対し、同氏は「EUに対する考えは何も変わっていない。EU離脱のシナリオはあくまでも緊急状況下で考えられるだけだ。わが国のEU離脱は損害が多い」と説明した。

それでは、ホーファー氏が考えるEU離脱の緊急事態は、①トルコのEU加盟、②加盟国の主権国家としての権限縮小を明記したEU条約の成立、③加盟国の全会一致原則の放棄、ブリュッセルの中央集権的運営などを挙げている。その上で、「ユンケルEU委員会委員長も英国離脱の国民投票結果を目撃し、そこから教訓を引き出しているはずだ」と指摘、EUの改革が今後進むことを期待した。

ホーファー氏が「1年以内に国民投票の実施」(6月25日)という従来の主張から、「EU離脱の考えはない」(7月9日)と変更した背景について、「英国がEU離脱を決定した後、国内で離脱反対の声が高まる一方、離脱推進派の無責任な辞任劇などを目撃し、オーストリア国内でもEU離脱に強い抵抗が生まれてきている。自由党の政策変更はその現状を反映したものだろう」とクールに受け取られている。

自由党はブリュッセル主導のEU政策に批判的で、EU・米国間の包括的貿易投資協定(TTIP)に反対し、TTIPを問う国民投票の実施を要求する一方、難民問題では、“オーストリア・ファースト”を前面に出し、外国人排斥を選挙戦では訴えて、躍進してきた。欧州レベルでは、フランスの ジャン= マリー・ル・ペン党首が率いる「国民戦線」、オランダのヘルト・ウィルダース党首の「自由党」など欧州の極右政党との連携を深めてきた。その自由党がEU離脱を拒否したことで、欧州内の極右政党間の連携にも支障が出てくることが予想される。

ホーファー氏は、「フランスがEUに留まるかどうかはフランス国民が決めることだ。私はオーストリアがEUから離脱することを願っていない」と重ねて強調している。

ホーファー氏のEU離脱拒否発言は10月2日の大統領選決選投票向けの選挙戦略に過ぎないのか、それとも欧州の極右政党の中で最も躍進中の自由党の抜本的政策変更を意味するのか、その判断を下すためにはもう暫くその言動を注視する必要があるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。