子どもの貧困問題に取り組む認定NPO法人フローレンスの駒崎です。
さて、今年も恵方巻きが余りまくって、まだ食べられるのに大量に捨てられたそうです。
SNS上は「もったいない」「恵方巻きの習慣なんてやめちまえ」という声が広がっています。
豆じゃなくて恵方巻で鬼撃退できそうな量の廃棄 pic.twitter.com/r1wuL4uM4G
— 無職終了のお知らせ (@29Masato) 2016年2月3日
しかし、こうした「まだ食べられるのに、バンバン捨てられる」という「食品ロス」は、珍しいことでもなんでもありません。
むしろ、日本は食品ロス大国なのです。今日はこの辺りの事情と、解決への道筋を見ていきたいと思います。
まだ食べれるのに捨てられる食料は、東京都民が食べる量1年分
日本では、まだ食べれるのに捨てられる食料は、毎年632万トンと推計されています。そう言われてもピンとこないと思うのですが、こういうと凄まじさが分かります。
「1300万人の東京都民が、1年間に食べる食料に匹敵する量」です。
食品ロスだけで、東京都民が食えていけちゃうわけです。(出典:東京都環境局 廃棄物と資源循環http://bit.ly/1YO9WcJ)
また、こう言い換えても良いでしょう。
世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた「食料援助」(320トン)の約2倍の量。我々は食料を無駄に捨てているのです。
(出典:政府広報オンラインhttp://bit.ly/2kgmazl)
ひどいですよね。恵方巻きは、単なる一例に過ぎないわけです。
食品ロスが出る理由
(1)賞味期限を短めに設定
賞味期限は「おいしく食べられる期限」。消費期限は「食べても安全な期限」。
この賞味期限は、ほとんどの食品で、実際よりは8割ほど短く設定されています。
メーカーとしては、搬送するトラックや小売、お家でどんな保存状態になるか分からないため、リスクを鑑みて、短めに設定しておく、という心理が働くためです。
賞味期限を1日でも過ぎれば、店頭に並ぶことは許されていません。
(2)賞味期限よりも前に棚から撤去される「3分の1ルール」がある
しかも、早めに設定されている賞味期限よりも、さらに早く捨てられます。
それが食品業界の慣行、「3分の1ルール」です。
製造してから賞味期限までを3つに区切って、最初の3分の1の期間を「納品期限」、次の3分の1の期間を「販売期限」としています。メーカーは、最初の3分の1の期間までに納品しないと、小売は受け付けてくれませんし、小売は賞味期限の3分の1も手前の「販売期限」で商品を撤去せざるを得ないのです。
つまり、賞味期限よりも遥かに前に、売れなくなっているわけです。
食品に関してゼロリスクを求める国民のニーズに基づき、メーカーや小売等業界全体が最適化した結果、過剰に早い期限設定を行うことになったのです。
解決策
(1)フランスのように「食品ロス防止法」をつくる
3分の1ルールは単なる業界慣行なので、見直しも含め、農水省あたりが法的に規制していくことです。
現にフランスでは既に、大型スーパーが売れ残り品を廃棄することを禁じる法律が昨年できたところです。(出典:毎日新聞)
(2)食品ロスを、貧困世帯に
フランスの「食品ロス防止法」では、食品ロスを教会や「フードバンク」等の慈善団体に寄付することを義務付けています。
フードバンクは、もらった食品を、厳しい環境の家庭やDVシェルター、児童養護施設等に配る団体です。
なにせ東京都民1年分の食料が捨てられている現在です。それらを全て低所得世帯に配れるとしたら、子ども貧困の相当程度は解決します。なぜなら、食費を3万円分削減できれば、可処分所得を3万円分向上させられるからです。
つまり、食料配布が、現金支給による再配分と同等の効果をもたらすことができるのです。これは新たなセーフティネットとなるでしょう。
(3)ドギーバックを流行らせよう
海外では、レストランで食べきれなかったご飯を、ドギーバックという袋に入れて、持って帰らせてもらえます。
日本だと、食中毒等を嫌がって、店側がお断りするケースが多いようです。
同じ店の「お持ち帰りカウンター」では持ち帰りできて、店で食べたものを持ち帰ろうとするとダメ、というのは矛盾です。
さて、こういう慣習を打破しようと、国際ホテル株式会社のホテルが持ち帰りを推奨する取り組みをしています。
( 画像は国際ホテルHPより)
こうした取り組みが、多くのレストラン等に広がっていけば、持ち帰りが普通になっていくでしょう。
ちなみにフランスでは、昨年から1日180食以上提供するレストランに対し、ドギーバッグの提供を義務化する法律が施行されています。
(4)備蓄食料の取り替え時期に、寄付をする
行政機関や企業等では、大震災に備えて、水や保存食料等を備蓄することが義務付けられています。そうした備蓄食料も3年に1回、5年に1回等の周期で買い換えなくてはいけません。だとしたら、そのタイミングで単に買い換えて、古いものは捨てるのではなく、フードバンク等に寄付をしてもらえたら、備蓄食料で誰かを助けることができます。
(5)フードドライブに参加する
お中元やお歳暮でもらったけれど、好みと合わずなかなか食べられない。そんな経験はみなさんあろうかと思います。各家庭で余っている食料を寄付することを、「フードドライブ」と言います。ドライブは運転ではなく、「募集する運動」という意味があります。
女性のためのフィットネスチェーン、「カーブス」では、昨年全国1600店舗で「カーブスフードドライブ」を行い、今年も2月中旬(まだ間に合う!)までやっています。近所にカーブスがある方は、ぜひ参加してみてください。
。
企業以外でも、世田谷区や文京区等の自治体も、定期的にフードドライブを行なっています。
フードドライブは、それ自体で集まる食品量自体は限りがありますが、参加する人たちへの啓発効果や口コミ効果が生まれる良さがあります。
また制度だけでなく、ドギーバッグやフードドライブ等、我々が風土を変え、創っていくことも両輪として必要だ、ということもお分かり頂けましたでしょうか。
恵方巻きを口に咥えつつ、途方もなく生み出される食品ロスについて、少し考えて頂けたら嬉しいです。
参考図書:「賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか」井出留美 http://amzn.to/2jRXY2K
(井出さんは日本において、食品ロスを語らせたら右に出るものはいない方で、本記事を書く上でも大変お世話になりました。謹んで感謝申し上げます。)
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年2月6日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。