大手エネルギーは需要ピークの到来を恐れている

昨年12月に合意された協調減産の履行状況を横目に見ながら、原油市場は2ヶ月ほどボックス圏内の動きに留まっていたが、3月8日になって3ドル近い下落を見せた。それから1週間、価格は50ドル以下の低水準で推移しているが、市場は活況を呈し、3月9日には最近の平均取引量の2倍に近い19億バレル以上の取引があり(これまでの最高は、OPECが減産合意した11月30日の24億7,000万バレル強)、未決済取引残高(Open Interest)も3月15日には22億4,000万バレル強と、新記録を塗り替えた。

だが、この下落も市場の根本的なセンチメントを変えるものではない。リバランスへの道のりはIEAが考えていたほどスムースなものではない、というだけのことだ。リバランスは、遅々として、だが進んでいる。

弊ブログで報告したい面白い記事がないな、と思っていたところ、我らがEd Crook(FT New York)が ”Big energy fears peak oil demand is looming” (around 14:00 on March 15, 2017 Tokyo time)という興味深い記事を書いてくれた。

当該記事のテーマである新ピークオイル論(需要ピーク論)は、気候変動問題と同様、将来のエネルギー動向に大きな影響を与えるものだ。たとえば、サウジアラムコ株IPO時の「株式評価」にも直結している。サウジ側は、同社の評価額は2兆ドル、5%のIPOで1,000億ドルになる、と言っているが、最近になって市場の一部に「それほどにはならないのでは」という疑念が生じている背景の一つに、この新ピークオイル論がある。1,000万BDの生産を70年以上支えうる2,650億バレル(これに疑義を持つ人もいる)の確認埋蔵量は、いくらと評価するのが妥当なのだろうか。

さて、Edの長い記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・中国の人民日報が先月伝えたところによると、大気汚染対策の一環として新しいタクシーはすべて電気自動車かガス燃料自動車にしなければならないという規則の制定を検討している。中国政府のこの動きは、世界中の石油生産者に冷水を浴びせている。石油需要の増加がいつか止まるという需要ピーク論は、すぐには訪れるものではないとしながらも、ここ数年エネルギー業界の中で議論されてきた。だが、多くの大手石油会社は、需要ピークと持続的な低価格は、今から準備が必要な課題だと認識している。

・シェルは、早ければ2020年代後半には需要ピークが来るだろう、とみている。(ノルウエーの)スタットオイルは、2020年代半ばから2030年代後半には到来すると信じている。だが誰もが合意をしているわけではない、IEAは、各国が気候変動対策を集中して実行しない限り、2040年末あるいはその後まで、石油需要は増加し続けるとみている

・BPの上流部門のトップ、バーナード・ルーニーは、大手石油会社は次の理由により新しい競争にさらされている、という。すなわち、米国のシェール革命、再生エネルギーのコスト下落および地球温暖化対策として化石燃料の使用を減少する各国政府の努力、だ。
「これらがいつ起こるかは誰にも分からない。だが、無視することは決して賢いことではないと自分は思う」と。

・過去10年間、需要ピーク論は議論されてきたが、世界の石油需要は2006年の8,450万BDから昨年の9,660万BDへと増え続けている。

・BPのチーフ・エコノミストのスペンサー・デールは、2035年に1億台に増えても、120万BDの石油消費を代替するだけで、電気自動車だけではゲームチェンジャーにはなりえない、という。

・IEAは、2015年から2040年の間に、乗用車用需要は若干減少するが、トラック用軽油、ジェット燃料あるいは石油化学原料用の需要は急増するとみている。

・大手石油会社は、需要ピークと持続的低価格に有効な手立てを検討している。

・シェルは、最もコストの高いカナダのオイルサンド資産を72.5億ドルで売却すると発表した。他社もポートフォリオの見直しを行っており、シェブロンやエクソンは低コストの米国、特にテキサスやニューメキシコのシェールへの投資を増やしている。BPは、ガスの生産(比率)を増やしている。トタールのように、再生エネルギーへの投資を行っているとこもある。

・結局、需要ピークに備えるということは、生産物で差別化ができないため、コストの安い原油を手に入れるということなのだ。イタリアのエニは、新しいプロジェクトの損益分岐点は30ドル以下だ、という。スタットオイルのCEO、エルダー・サトレは、新しいプロジェクトの「次世代ポートフォリオ」の損益分岐点は、約70ドルから「30ドル以下」に引き下げた、という。

・サービス業者からの値下げもあるが、コスト削減の大半は資機材の標準化や自動化などの技術投資など、よりスマートに効率的に経営することによっている、と大手石油会社は言う。サトレは「無人の[沖合プラットフォーム]がある」「無人で、ヘリポートも住居棟も不要なのだ」という。

・トタールのCEO、Pouyanneは、今週の51ドルよりはさほど高くない、55ドルなら「楽観的」だ、という。次の1年半の間に10件の新規プロジェクトを承認する計画がある。

・もしIEAのシナリオとおり石油需要が増加し続け、2020年代により高い価格となれば、これらのプロジェクトは巨額の利益を生むことになる。リスクは、電気自動車が急増することと代替燃料への投資が増え、需要ピークが前倒しになることだ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年3月16日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。