北朝鮮への懸念で近隣国の日本の通貨が買われる不思議

昔の相場の格言に「有事のドル買い」というのがあった。これは戦争などが起こった場合、いわゆる有事の際に外国為替市場においてドルが買われやすいことを意味する。軍事大国でもある米国の通貨のため、安全性が高いとされる上に、ドルは最も流動性が高く、ほかの通貨よりも信用リスクや流動性リスクが低いことで、有事の際には買われやすいことを意味していた。しかし、この有事のドル買いという言葉は最近ではあまり通用しなくなった。地政学的リスクの強まりによりドルが買われる場面はあるが、こと円に対してはドルが下落することが多い。

6日に米軍がシリアに向けてミサイル攻撃を行った。そして間髪入れずに今度は、8日に原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群がシンガポールから朝鮮半島に向けて出航した。米国のトランプ大統領は11日、ツイッターで「中国が北朝鮮問題を解決すれば、米国とより良い貿易取引ができるだろうと中国の習近平国家主席に説明した」と投稿した。さらに「中国が協力を決断するなら、それはすばらしいことだ。そうでなければ、中国抜きでわれわれが問題を解決する」とも投稿しており、中国が行動しないのであれば、米国が単独で対応する用意があるという考えを改めて示した。

海上自衛隊が朝鮮半島の近海に向けて航行中の米空母カール・ビンソンと共同訓練を検討しているとも伝えられており、これも北朝鮮を刺激する可能性がある。今月は金日成主席の誕生日を15日に迎えるなど、北朝鮮で記念日が続くことで北朝鮮が新たな挑発行為に出る懸念もあり、一触即発のリスクも高まっている。

金融市場動向をみると特に欧米の株式市場などでは、それほど大きな動揺を示していないが、外為市場ではじわりじわりと円高が進行し、「ドルは強すぎる」とのトランプ大統領の発言も加わって、ドル円は一時109円割れとなった。リスク回避の動きから金の先物も買われ、ニューヨーク金先物相場は5か月ぶりの高値をつけている。

金が買われるのは何となくわかるが、地政学的リスク回避の動きだからといって円が買われるというのは理屈に合わない。今回のリスク回避の動きの背景にはシリアという中東の国の問題というより、地理的に日本と非常に近い北朝鮮の影響が大きい。何かしらの有事が発生した場合に、米国と日本への影響やそのリスクを考えると日本に対する影響の方が大きくなるはずである。それにも関わらず何故、円がドルに対しても買われるのであろうか。

リスク回避の円買いは、理屈で動くというよりも長きにわたり市場で形成されてきた条件反射的な動きに思える。たしかに先進国のなかで政治は安定しているようにみえる。しかし、安倍首相以前は毎年のように首相が替わっていた国であった。しかも膨大な政府債務を抱え、中央銀行はやや無謀とも言える政策を続けている国である。これらは日本国債の潜在的なリスクを高めているともいえる。それでも円が買われるのは、日本への信認が維持されている裏返しでもあるのかもしれない。しかし、それでも北朝鮮における地政学的リスクの高まりによる円買いに対しては、違和感を持たざるを得ない。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年4月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。