バロンズ:米個人消費、減速はまやかしにあらず

2017年06月05日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーは名物コラムのアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートを掲げる。執筆はランダル・フォーサイス氏ではなく、コピン・タン氏が担当し米国の個人消費の低迷を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

米国経済への驚くべき脅威—The Surprising Threat to the American Economy.

米国は、アメリカ風の消費を世界に輸出してきた。中国ではショッピング・モールが並び、中東ではマクドナルドが1日200万人が押し寄せる。おかげで米国の失業率は4.3%と約16年ぶりの水準まで低下し、賃金は小幅ながら上昇し、米株は過去最高値を更新中だ。

ところが、米国の個人消費は伸び悩んでいる。実質の個人消費は前年比2.6%増と、経済拡大中の水準である4%増に届かない。小売売上高は2011年半ばに前年比8.3%増でピークアウトし、その後は4.5%増まで鈍化した。経済拡大期が95ヵ月に及ぶというのに、失望を誘う。米株のセクター動向をみると一般消費財は年初来で13%高を示し、テクノロジー株に次ぐ高水準にある。しかしアマゾン、マクドナルド、コムキャスト、ホームデポの4社が牽引しているに過ぎない。その他の店舗を持つ小売大手は、オンラインとの競争に喘ぎ失速中だ。

ただ、今のところ個人消費が急速に落ち込む気配はない。家計資産は住宅価格の上昇を背景に住宅バブル期より37%増加し、その資産のうち30%は米株と投資信託に結び付いている。少なくとも、我々は米株が下落しないことを望むまでだ。

では、一体何が消費熱を抑えているのだろうか?これまで米国での消費ブームは、信用の拡大によって引き起こされてきた。足元、家計債務は12兆7,300億ドルに達し、2008年7〜9月期の12兆6,800億ドルを超える状況である。しかし低金利の環境下、30年物住宅ローン金利は3.9%付近で、可処分所得に占める住宅ローン関連の支払いは4.4%と過去数十年間で最低だ。それでも米連邦公開市場委員会(FOMC)による利上げの効果が響きつつあり、キャピタル・ワンやディスカバー・フィナンシャルなどによると、貸倒償却は増加している。

個人消費、所得は実質ベースでは景気拡大中とは思えない軟調ぶり。

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(作成:My Big Apple NY)

米国経済は債務に依存してきた一方、成長鈍化とともに支出の伸びは変化した。1960〜70年代でのモノの消費は前年比11%増だったが、1990年以降は9%増を超えることはなくなってしまった。2002〜07年には7.7%増でピークに達し、2015年には5.9%増、最近では3.6%増まで伸びを縮めている。

金融危機後、家計が低金利の状況でも貯蓄を殖やす傾向が高まったことも消費に変化を与えた。家計資産のデータは、所得格差の問題を捉えていない。世界の4大中央銀行はバランスシートを18.4兆ドルへ拡大させたものの、その効果は均等ではなかった。1950年代の経済拡大では、所得上位10%が占める家計資産の割合は20%に過ぎなかった。しかしレヴィ・エコノミクス・インスティチュートによると、現時点では所得上位10%が占める家計資産の割合は76%に及ぶ。ピュー・リサーチ・センターの調査では、下位50%が占める家計資産の割合は1%でしかない。

こうした現状はミレニアル世代で顕著であり、18〜34歳で親と同居する割合は32%と10年前の27%を上回る。2015年に大学を卒業した学生の平均債務額は3.5万ドルと、1993年の1万ドルから急拡大した。結果、家計債務に占める学生ローンの割合は2008年の5%から11%へ上昇した。金利が低下したところで住宅保有率がかつての69%から63%へ低下したのは、ミレニアル世代が経済拡大の恩恵を受けていない証左だろう。

学生ローン以外でも、負担は大きくなっている。1人当たり国内総生産(GDP)は2007年以降で1%増にとどまるものの、ヘルスケアや住宅、教育に占める支出の割合が1980年の25%から2015年に36%へ上昇したように、経済的負担は増加してきた。特にヘルスケアは顕著でありGDPの16.9%を占め、経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国平均の8.8%の2倍近い。

トランプ政権での税制改革は消費を下支えするだろうが、必ずしも消費加速を約束するものではない。2014年半ばから2016年にガソリン価格は3.69ドルから1.76ドルへ下落し、2,000億ドルもの所得税減税効果をもたらした。しかし個人消費に火を点けることはなく、貯蓄率を5.8%から6%ヘ引き上げる程度だった。米5月消費者信頼感指数をみても、購入見通しは住宅や自動車、主要機器において10ヵ月ぶり低水準を示す。

投資家は消費の鈍化を見越しているのか、S&P500構成銘柄のうち多国籍企業に資金を流入させている。ベスポーク・インベストメントによると、海外の売上依存度が最も高い50社の株価は5月時点で4.4%高だった一方、国内の依存度が高い50社は0.9%安だった。米国の家計は成長を促進する上で相応の役割を果たしてきただけにブレークするに相応しいものの、少なくとも投資家の期待値は低いようだ。

——米株や米経済に慎重な見方を貫くランダル・フォーサイス氏の流れを引き継ぎ。コピン・タン氏もGDPの7割を占める個人消費に悲観的な見方を寄せています。米5月雇用統計で失業率が低下したとはいっても、非農業部門就労者数(NFP)が鈍化し平均時給も伸び悩むなかでは、強気になりようがありませんからね。米5月新車販売台数も、5ヵ月連続で前年割れでした。かくいう筆者も2017年の米国経済には楽観的になれず、成長率は2年連続の2%割れを予想しています。Fedは年内あと2回の利上げ、年末のバランスシート縮小に前向きですが、少なくとも後者が先送りとなる可能性に留意しておきたいところです。

(カバー写真:John Fraissinet/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年6月5日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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