日銀の金融政策では反対意見に耳を傾けることも必要では

「一人の委員は、2%の「物価安定の目標」は金融政策の自由度を奪っていると指摘したうえで、これを中長期の目標へと柔軟化しつつ、金融政策の正常化に向けた道筋として、将来の政策金利引き上げに関わる経済条件を示していくことが適当であると述べた」

これは 6月15、16日に開催された日銀金融政策決定会合議事要旨に記述されていたものである。その内容からみて、金融政策決定会合において長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)、資産買入れ方針と両方で反対票を投じていた佐藤健裕委員、もしくは木内登英委員による発言とみられる。

木内委員は今年2月の山梨での公演で以下のように述べていたことで、上記の発言は木内委員のものではなかろうか。

「2%の「物価安定の目標」は中長期的に目指す目標とし、2%の「物価安定の目標」と整合的な強い経済の実現を政府や企業とともに目指すための一種の象徴として位置付けることが良いと私は考えています。」

7月1日にカナダ銀行が7年ぶりの利上げを決定し、正常化に向けて舵を切ったFRBに追随した最初の中央銀行となった。さらにイングランド銀行やECB、スウェーデン中銀(リクスバンク)などが緩和バイアスを解除し、利上げもしくはテーパリングを模索しようとしている。

しかし、英国など除いて総じて物価指数は2%に届いていない。これは正常化を進めている米国も含まれる、それにも関わらず何故、正常化に踏み出すのか。

ECBのメルシュECB専務理事は「状況が正常化する中で、非伝統的政策が引き続き必要になる可能性は低い」と発言していた。百年に一度とされる世界の危機的状況は後退してきており、過剰とも言える金融緩和策を修正する必要があり、金利もファンダメンタルに即した水準に戻る必要性がある。このために正常化を進めようとしている。そのためには物価目標に固執せず柔軟な対応が必要との認識ではなかろうか。

しかし、日銀は2%の物価目標に固執するあまり、欧米の中央銀行のような柔軟な対応が取りづらくなっているようにも思われる。木内委員の意見はあくまで少数派の意見ではあるものの、その意見にも耳を傾けることも必要ではなかろうか。

その木内委員と佐藤委員は7月23日に審議委員の任期を終えた。あらたに片岡剛士氏と鈴木人司氏が審議委員に就任した。

日銀の金融政策決定会合では必ずしも全員一致で決定する必要はなく、むしろ反対意見も重要なものとなり、その反対意見が今後の金融政策の道筋を作ることもありうる。このあたりも是非、政策委員の方々には考慮願いたいと思う。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。