【映画評】幼な子われらに生まれ

幼な子われらに生まれ (幻冬舎文庫)

バツイチの中年のサラリーマン・信は、2人目の妻・奈苗と再婚。今度こそ幸せな家庭を築きたいと願っているが、奈苗の連れ子と上手くいっておらず、前妻と暮す娘との面会を楽しみにしていた。そんな時、奈苗の妊娠をきっかけに、情緒不安定になった長女・薫が反抗的な態度を取りはじめ、本当の父親に会いたいと言い出す。奈苗は元夫のDVが原因で離婚しており、薫が彼に会うことは信も奈苗も反対だった。ぎくしゃくする家庭に疲れた信は、現在の家族に息苦しさを感じてしまうのだが…。

再婚した中年男性が新たに授かった命をめぐり家族関係を模索する姿を描く人間ドラマ「幼な子われらに生まれ」。原作は直木賞作家・重松清の小説だ。家族や仕事に悩みながら、精一杯誠実に生きていこうする平凡な中年男・信を演じるのは、尖がった役が多かった浅野忠信で、このキャスティングはとても新鮮だ。専業主婦で依存心が強い奈苗、信の前妻でキャリア志向の友佳、平凡や退屈を嫌って奈苗と別れた沢田。登場人物たちは誰もが、鬱屈とした心情を抱えて生きている。田中麗奈、寺島しのぶ、宮藤官九郎らのアンサンブルの演技も味がある。男性と女性では、共感する部分も異なるはずで、そのあたりの温度差をセリフで上手く表した脚本もいい。観ている間はずっと息苦しいのだが、悩んだり失敗したり、傷ついたり傷つけられたりしながら、懸命に家族になろうとする不器用な人々の姿には、感動すら覚える。

家族のつながりとは?という普遍的なテーマは、洋の東西を問わず繰り返し映画で描かれてきた。血のつながりのない家族と、血がつながった他人という複雑な家族関係の中に、新しい命が宿ることで、彼らの関係性はどう変わるのか。これはちょっとしたサスペンスである。友佳の「理由は訊くくせに、気持ちは訊かないの、あなたって」のセリフにはどきっとさせられるが、終盤、何かが変わり始めた信が父親として薫に発する言葉に、ツギハギだらけの家族が、それでも強くて優しい家族に変化するための“ヒント”が見えた。自分の気持ちを偽らず、相手の気持ちを量り、歩み寄る行為の繰り返し。家族とは、何と、めんどくさくて愛おしい存在であることか。安易な癒し系ムービーの初期作品から、らしくなかった前作「少女」を経て、三島有紀子監督自身が、鋭く深いヒューマンドラマの作り手へと変わろうとしているように思えた。

【65点】
(原題「幼な子われらに生まれ」)
(日本/三島有紀子監督/浅野忠信、田中麗奈、池田成志、他)

(不器用度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年8月29日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式サイトより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。