【映画評】オン・ザ・ミルキー・ロード

2017年09月18日 06:00

隣国との終わりなき戦争が繰り広げられる東欧の某国。コスタは、毎日、ロバに乗って、銃弾をかいくぐりながら、前線の兵士たちにミルクを届けていた。ある時、コスタは、ローマからセルビア人の父を捜しに来て戦争に巻き込まれたという絶世の美女と出会い、互いに一目で惹かれあう。だが彼女は村の英雄ジャガの花嫁になることが決まっていた。そんな中、かつて彼女を激しく愛した多国籍軍の将校が送り込んだ特殊部隊によって、村は襲撃され、愛すべき村人は皆殺しに。偶然村を離れていて助かったコスタは、花嫁を連れて決死の逃避行を繰り広げるが…。

ミルク運びの男と美しい花嫁の愛の逃避行とその顛末を描く奇想天外な物語「オン・ザ・ミルキー・ロード」。世界三大映画祭を制した鬼才エミール・クストリッツァ監督は、過去にも時折、俳優として名演技をみせてきたが、自分の監督作品に主演するのは、今回が初めてだ。約9年ぶりとなる新作は、いかにもクストリッツァ監督らしい、にぎやかな作品で、のどかで平和な暮らしと残酷な戦争とが隣り合わせのドタバタ喜劇が、沢山の動物たちを交えて、繰り広げられる。人間も動物も、戦争も平和も、生も死も、すべてがゴッタ煮。スパイスは、おなじみのバルカン・サウンドの陽気な音楽。沸騰した鍋からあふれんばかりの大暴走のラブストーリーが展開する。これぞクストリッツァ・ワールドだ。

ストーリーの先読みが不能なほど物語はカオス状態なのだが、悲劇的な内戦を経験した旧ユーゴ出身のクストリッツァがたどり着く結末は、人間の愚かさや戦争の悲惨を容赦なく突きつける、破壊的な描写だった。それでもこれは、紛れもなく愛の寓話である。美貌のモニカ・ベルッチ演じるワケありの花嫁も、壮絶な過去を持つコスタも、もう若くはない。だが共に地獄を見てきたからこそ、彼らの愛の逃避行は、この上なくピュアだ。劇中、象徴的に描かれる蛇やハヤブサ、花嫁が難民キャンプで繰り返し見る旧ソ連映画「鶴は翔んでゆく」、ラストに登場する、黙々と石を運ぶ僧侶。すべてが平和への祈りに通じている。
【70点】
(原題「ON THE MILKY ROAD」)
(セルビア・英・米/エミール・クストリッツァ監督/エミール・クストリッツァ、モニカ・ベルッチ、ミキ・マノイロヴィッチ、他)
(カオス度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月17日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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