規制緩和と金融の革新

金融は、普通は、企業に対する金融、即ちコーポレートファイナンスである。さて、資金を調達する企業には、資金使途、即ち目的、片仮名でいえばオブジェクトがある。現代の金融技法は、オブジェクトを独立させて金融の対象にするところへまで進化している。これがオブジェクトファイナンスだ。オブジェクトファイナンスの利点の一つは、企業倒産からの隔離である。

航空機を例にとろう。空運業の世界的な規制緩和は、大手の空運会社でも簡単に倒産してしまう事態を招いている。金融機関としては困った問題である。新規参入のLCCなど、社会的には重要でも、金融の立場からは、取り組みにくい案件である。故に、オブジェクトファイナンスが利用される。具体的には、航空機のオペレーティングリースである。オペレーティングリースであれば、空運会社が経営破綻しても、貸している航空機を回収して別の会社に貸せばいいだけで、面倒な破綻処理を回避できる。

一般に、規制緩和は、金融の立場からは、二重に困った問題なのである。第一に、既存の優良融資先の破綻確率を大幅に引き上げてしまうことであり、第二に、新規参入組は、新規参入であること自体において、融資の取り組みが困難なのである。そこで、代替的な金融手法が工夫されなくてはならないわけで、運輸業や電気事業に代表されるように、規制緩和が進行している分野では、オブジェクトファイナンスが多用されているのである。

また、エネルギー関連等の資源開発、大規模不動産開発、インフラストラクチャー開発など、巨額な資金を必要とするものは、開発事業者へのコーポレートファイナンスでは、与信の集中等の量的な限界が露呈してしまう。こういう場合にも、オブジェクトファイナンスが多用される。

なお、特殊な例だが、企業のもつ特定の危険を遮断するためにも、オブジェクトファイナンスは使われる。例えば、原子力事業をもつ電気事業者に対してコーポレートファイナンスを用いると、金融機関は原子力も含めた危険を負担することになるが、特定の火力発電所等を対象にオブジェクトファイナンスを行えば、原子力にかかわる危険を遮断できるというわけである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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