非武装中立って何?

2018年01月02日 17:00

「朝まで生テレビ」で漫才師が「日本は非武装中立でいい」といって批判を浴びましたが、これはそれほどナンセンスな話ではありません。社会党は1990年ごろまでそういう政策を掲げており、これは「憲法を守る」という立場から考えると、まちがっていません。1946年6月に憲法を制定する議会で、吉田茂首相は次のように答弁しました。

自衛権による戦争、また侵略による交戦権、この二つにわける区別そのことが有害無益なりと私はいったつもりでおります。今日までの戦争の多くは自衛権の名によって始められたことが過去における事実であります。

すべての戦争は自衛戦争です。太平洋戦争も「自存自衛」のために始められたので、自衛戦争を認めるとすべての戦争を認める結果になります。だから日本が戦争を起こすことを防ぐには、自衛戦争か侵略戦争かを区別しないで、すべての戦争を禁止する必要がある、という吉田の答弁は筋が通っています。

問題は、他国が日本を攻撃したときどうするかです。憲法が制定されたころは占領軍(米軍)が日本に駐留していたのでよかったのですが、日本が独立して米軍が撤退したらどうするんでしょうか。これについて論理的には、次の4つの考え方がありました。

1.日本は憲法を改正して軍隊をもち、米軍は出ていく
2.日本は憲法を改正して軍隊をもち、米軍も残る
3.日本は憲法を改正しないで軍隊をもたず、米軍は残る
4.日本は憲法を改正しないで軍隊をもたず、米軍も出ていく

このうち保守派の政治家の多くは1を考えていたのですが、吉田は2と3の中間の「日本は憲法を改正しないで軍隊をもち、米軍も残る」という道を選びました。これは前に引用した1946年の彼の答弁に比べると、論理的に一貫していません。憲法を改正しないのなら、第9条2項で禁じている「戦力」としての自衛隊をもつのは憲法違反の疑いがあります。

憲法を改正しないとすれば、選択肢は3か4ですが、3でも米軍が「戦力」にあたるおそれがあるので、憲法を厳密に守ると4しか選ぶことができません。それが非武装中立です。そうすると日本はまったく軍備をもたないので、ソ連や中国が攻めてきたらどうするんでしょうか。この問いに対して、森嶋通夫は1979年にこう答えました。

万が一にもソ連が攻めてきた時には自衛隊は毅然として、秩序整然と降伏するより他ない。徹底抗戦して玉砕して、その後に猛り狂うたソ連軍が殺到して惨澹たる戦後を迎えるより、秩序ある威厳に満ちた降伏をして、その代り政治的自決権を獲得する方が、ずっと賢明だと私は考える。

これは「攻撃されたら白旗を上げて降伏する」といった漫才師と同じですが、論理的には一貫しています。軍備をまったくもたない国は、戦争が起こったら他国の支配下に置かれるしかない。ロシアや中国の領土になっても、殺されるより生きていたほうがましでしょうが、生きていられる保証はありません。ソ連では2000万人が粛清で殺され、中国では文化大革命などで6500万人が殺されたと推定されています。

非武装中立は非現実的ですが、漫才師だけではなく東大法学部の憲法学者も主張しています。今年は憲法改正が国会でも論じられるでしょうが、「国を守る」とはどういうことか、国民があらためて考えるいい機会だと思います。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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